第9話 ミヨちゃん。

     あなたは、ミヨちゃんに会ったことがありますか?


 私はあるかもしれないし、ナイかもしれません。会ったことはあるのに、忘れているだけかもしれません。


 ミヨちゃんの話を最初に聞いたのは、お友達のSさん(30代・女性)からです。

Sさんは結婚してお子さん(Qちゃん・女の子・当時3歳)を授かり、ご主人の両親と三世代同居です。昔ながらの日本家屋に、5人で暮らしていました。


 ある日、Qちゃんがテーブルに乗ろうとしました。危ないのでお母さんであるSさんが声を掛けようとしたところ、Qちゃんは「ミヨちゃんにしかられる」と言って、叱られる前にやめたそうです。 その後もQちゃんは「ミヨちゃんにしかられる」と言いながら、ニガテなピーマンを食べたり、歯磨きを頑張ったり……。


 母親であるSさんは、不思議に思いました。ミヨちゃんって、誰? 家族の誰かが「ミヨちゃん」の話をQちゃんにしたのかと考えて、みんなに聞いてみたけれど、誰も知らないと言います。

Sさんは、Qちゃんに尋ねてみました。「ミヨちゃんて、だあれ?」

Qちゃんは3歳なので、上手に話すことができませんけれど、話す内容は一貫していました。「ふだんは仏間にいて、髪の毛は真っ白でバサバサ、着物を着ているおばあさん」そして「胸から下は透けていて、下半身は見えない。空中に浮いてる」


透けていて、空中に浮いてる!!!


 先入観のない3歳のQちゃんは、ミヨちゃんを不審に思わないようですけれど、大人のSさんからすれば、怖さしか感じません。「それって、幽霊……?」。髪の毛がバサバサの着物を着たおばあさんというだけでもコワイのに、身体が透けている上に、宙に浮いてる……。絶対に会いたくない……。


 けれどSさんは知的な方なので、Qちゃんにミヨちゃんを否定するようなことは言いませんでした。Qちゃんが、ミヨちゃんのことを話せば耳を傾ける。否定も肯定もしない。そのうちQちゃんは大きくなり、自分で色々なことを判断できるようになり、ミヨちゃんの名前を出すことはなくなりました。Sさんも私も日常の忙しさにまぎれて、いつしかミヨちゃんのことを忘れてしまいました。


 再びミヨちゃんの消息を聞いたのは、3年ほど後です。Sさんと私を交えて数人でお茶をしている時に、Oさん(女性・30代)が言いました。「4歳になる息子がときどき『ミヨちゃん』の話をするの。でもお友達に、ミヨちゃんていう子はいないの」。

 Sさんと私は、顔を見合わせました。ミヨちゃん? もしかして、あのミヨちゃん? ちょっと息子さんに、詳しくお話を聞いてもらえますか? Oさんは、快諾してくれました。


 後日Oさんに話を聞いてみると、やはりあのミヨちゃんらしい……。ミヨちゃんは息子さんに「食べ物の好き嫌いを言ってはいけない」とか「お行儀を良くしなければいけない」など、厳しく指導するそうで、息子さんが言いつけを守らないと、乱れた白髪頭をさらに振り乱して怒るらしい。大人がいる時は姿を見せないけれど、家の中を浮遊していて、胸から下は透けているらしい……。初めて聞いたOさんは驚愕していましたけれど、Sさんと私は納得です。


 どうやら同じ人物のようです。どうなっているんだ??

俄然興味が出た私たちは、それぞれの子どもに詳しく聞いて、後日また集まることにしました。って、私は子どもがいないので、何もできませんけれど。


 数日後、メンバーは再び集合しました。スーパーのフードコートで、調査内容を報告します。たまたま通りがかった共通の知人Bさん(40代・女性)は、集まった目的を聞いて「なにそれ!? 私も話を聞きたい!」と同席しました。


 Sさんが家に帰ってQちゃんに尋ねたところ、ミヨちゃんはいつの間にかいなくなったそうです。だんだんと会う回数が減って、1年くらい前から一度も見てないらしい。ここまで聞くのも一苦労で、Qちゃんはミヨちゃんを、ほとんど忘れていたそうです。


 Oさんの息子さんも、前述のQちゃんよりはおぼえていたけれど、「バサバサの髪の毛」といった細かい点は「そんなこと言ったっけ?」と、すでに忘れているらしい。息子さんは、1年ほど前からミヨちゃんに会うようになったそうです。一時は日に何度も指導を受けていたけれど、最近はほとんど姿を見せないらしい。


 私たちは言い合います。「Sさんちに出没する回数が減ったころから、Oさんちに出るようになった?」 「時期は合うわね」 「それでOさんちに出る回数も、減ってきてる?」 

みんなで話していると、通りがかりで偶然同席したBさんが口を開きました。

「数日前に、近所のお寺のおっさん(ご住職)と話してたときに、似たような話を聞いたの。住職の3歳になる子どもさんが誰かに叱られるからって、イタズラをやめる話」


私たちは異口同音に言いました。「「「名前を聞いて!!」」」


Bさんは、すぐに聞いてくれました。もちろん名前は「ミヨちゃん」でした……。

ミヨちゃんは、あちこちのおうちで3歳くらいのお子さんに、躾をしているらしい。その子が大きくなると、次のおうちに移るらしい……。


 見た目は幽霊みたいで怖いし、言うことを聞かないと怒るから別の意味でも恐いのですけれど、やってることは良い人みたいで、怖いんだけど、怖くないっていう……。


あなたも私もミヨちゃんのことを忘れただけで、昔はお世話になっていたかも……しれません♪



















 

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