第8話 身から出たサビ。
身から出たサビ(錆)。
意味……自分のしたことが、自分に跳ね返ってくること。
たまに、イタズラしたくなりませんか?まじめな場面ほど、ウズウズしませんか?
以前に空港で、旅の荷物が出てくるのを待っていました。ターンテーブルには荷物が並んでいて、警備の人がじっと睨んでいます。物々しい空気が流れている。
私はウズウズを我慢しました。だって、大人ですから。でも誘惑に負けてしまいました。私は優雅にスカートの裾をつまみ上げると、ターンテーブルに乗りました。
荷物と一緒に静かに移動する私を、その場にいた全員が息を詰めて見つめました。
って言っても、わずか2秒くらいです。
あっという間に警備員に囲まれて、私がつまみ上げられました……。
後ですごく叱られました。そりゃ、そうだ。「ごめんなさい。もう、イタズラはしません」と、その時は思いました。
先日、母校の「えぶり小学校」から、「作家になった卒業生として、在校生にメッセージを書いてほしい」と依頼をいただきました。内容は「作家になったきっかけ、本を好きになったきっかけ」。A4サイズの用紙に書いて郵送すれば、校長先生が全校集会で読み上げてくださるらしい。
あなたはすでに、お見通しかもしれません。私の「ウズウズ」が始まったのです。
全校集会で、私のメッセージを読み上げる真面目な顔つきの校長先生………。ウズウズ。
私は張り切って書きました。作家になったきっかけは、お話を書いてもらった賞の副賞が「本の出版」だったこと。本を出してもらったので、結果的に作家になった。
本を好きになったきっかけは、小学生の頃に「うんこの本」を読んだこと。うんこの話が面白かったので、うんこについて書いてある本をたくさん読んでいるうちに、うんこの本だけでなく、本が好きになったことを書きました。
全校生徒の前で真面目に「うんこ」を連呼する校長先生……。静まり返った体育館に響き渡る「うんこ」という言葉……。笑ってはいけない、小学生たち……。
一人でニヤニヤしながら、メッセージを書き終えました。そして速やかに郵送しました。惜しむらくは私もその場にいて、その空気を感じたかった……。
その話を交際している彼にすると、めちゃめちゃ怒られました。彼は真面目な方です。「全校集会でうんこの話なんて、とんでもない! 校長先生にも、失礼! 後輩の皆さんにも、失礼です! 書き直すべきです!」
言われてみれば、確かに。まず校長先生に、すごく失礼。そこに気づかなかった私は、すごく失礼。
「書き直すべ」と思っていた矢先、急に帰省が決まりました。そして私の帰省を知った校長先生から「ぜひ小学校に来てほしい。そして後輩たちに、直接メッセージを伝えて頂きたい」………!!!!!! うわあああああっっっ!!!
私は母校で「うんこ」を連呼しました……(涙)。まさに「身から出たサビ」でした……(涙)。自分で仕掛けたイタズラに、自分がハマってしまいました……(涙)。愛する後輩たちの記憶に残るのは「うんこを連呼するおばちゃん」。故郷に錦を飾りたかったのに、「うんこのおばちゃん」として末代まで語り継がれることになりました……(涙)。身から出たサビ、身から出たうんこ……(涙)。
校長先生が読み上げる予定だった原稿を書き直した後だったら、私も自分の原稿を書き直したと思います。でも自分が読むからという理由で原稿を変えるのはズルイと思って、あえて変えませんでした。
せめてもの救いは、愛する後輩たちの目がキラキラ☆していたことです。
みんな、うんこが好きなのです☆ 私もうんこ、大好きです☆
でも、大失敗でした……(涙)。
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