第53話

 ダンジョン。

 未だ何階層まであるのか未知数とされてきたそのダンジョン。

 一度だけ僕は最下層にまで来たことがあるが……それは強引に連れてこられてのものであり、何階層まであるのかわからなかった。

 だがしかし、今回初めて分かった。

 ダンジョンは全部で1000階層。

 

 今、僕がいるのは999階層。

 この下に邪神の抜け殻があるとなんとなくで察することが出来る。

 ここがダンジョンの中で魔物が出てくる最後の階層と言って良いだろう。

 

「ガァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 僕の目の前にいるのは一匹のドラゴン、999階層にいた唯一のドラゴン。

 虹色の体を持った全身から膨大な魔力を噴き出している怪物……そんな存在が今、僕の目の前で咆哮していた。


「『神より宿し天命:神装開放』」

 

 僕の手に握られている刀がわずかに光る。

 神装開放してもある変化はそれだけ……それだけしかない。

 だが、この刀が手にする様々な能力と力は確実に神装開放に相応しき力を手にしている。


「ガァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 最下層一歩手前であり、邪神からの膨大な力を浴び続けて強くなり続けたこのドラゴンが地上へと出ればひとたび世界をたやすく呑み込んでしまうだろう。


「『真・解放』」

 

 アルビナ帝国皇帝……その人さえいなければ。


「『神明流水』」

  

 刀は動かない。僕も動かない。


「ガァ?」

 

 ただ斬れて落ちて死んだという事実のみが残る。

 四肢は切り落とされ、翼は絶たれ、首が僕の足元へと転がってきた。

 ドラゴンは何もわからぬまますべてを失った。


「よっこいしょ」

 

 僕は首を拾い上げ、体を動かす。


「帰るかぁ……」

 

 こいつを持っていけば僕の勝ちは間違いないだろう。

 これが一番強い魔物なのだから。

 だって999階層にいたし、この下は1000階層はもういろいろとあって大変なことになっているし、魔物はいない。

 この虹色のドラゴンが最強だろう。ダンジョンの中では。

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