第48話

「……」


「……」


 マキナとミリア。

 小さな寝息を立てて気持ちよさそうに眠っているアルミスの横で二人は互いに沈黙し、牽制しあっていた。


「あなたも寝たらどうですか?」

 

 そんな沈黙を破るようにミリアが口を開いてマキナへとほんの少し意識を向ける。


「えぇ……寝るわよ。で?あんたは寝ないの?」

 

 ミリアの言葉にマキナは頷き……同じような質問を投げかける。


「いえ、私はアルミス様の寝顔を見ていますので。お気になさらず」


 ミリアの言葉……それに対してマキナは疑いの視線を向ける。


「変なことはしないでしょうね……?」


「しませんし、そもそもできませんよ。アルミス様は睡眠時に己へと接触する寸前のものがあれば飛び起きますからね。したくとも出来ませんよ」

 

 それに対する答えは明確。

 寝ているときのアルミスにいたずらはできない。そんなの当たり前だった。


「私はマキナ様の寝顔を拝顔するのが好きなのです。ただそれだけです。この家に住んでいた時の毎日のルーティーンです。私、超ショートスリーパーなんですよ。一時間も眠れれば十分なんです」


「ふー」

 

 マキナは深く息を吐く。少しだけ忌々しそうに。


「ここはあなたに譲るわ。一応あなたの日であるわけだしね」


「一応ではありませんがね。ですが、ご安心ください。今日、アルミス様を独り占めするつもりはございませんので」

 

「……感謝しておくわ」

 

 部屋からマキナが出ていく。

 残されたのはミリアだけ。部屋の中にはアルミスとミリアの二人だけ。


「んっ……」

 

 ミリアは何かをするわけでもなく、ただただアルミスの寝顔を眺め続けて居るのだった。

 何秒、何分、何時間でも……ただただじっとアルミスの寝顔を。


 ■■■■■


 マリーの何も知らぬところで。

 完全にルールが崩壊し、一人はぶられる結果となっていた。

 SS級冒険者アルがアルビナ帝国皇帝アルミスであるとわからないマリーにとってアルミスのもとにたどり着くのはかなり絶望的であると言うことが出来た。

 公爵家令嬢はただの平民と奴隷に出し抜かれたのだ。

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