第26話
「貴族の者が皆さんには迷惑をかけた。これは我の不徳の致すところだ。二度ないよい……勤めていくことを我はこの場で宣言しよう」
僕は呆然としている周りの面々に向けて口を開き、淡々と己の考えを話していく。
「女将さん。これは焼きそば代と迷惑料だ。看板娘ちゃんにも何か良いのを買ってあげてくれたまえ。焼きそば、美味しかった」
僕は白金貨を一枚、レジに置いてこの場を後にした。
白金貨一枚。
それは平民一人が稼ぐ生涯賃金と同等の価値があるだろう。
決して平民が目にすることはないであろう金銭を渡した僕はこの場を後にした。
「美味しかったわ。ありがとね」
そして、マリーも女将さんに声をかけてからお店を出た。
「まったく……大変なことになっちゃったわね」
「だね……」
僕以外には聞こえないように小さな声で呟いたマリーに対し、僕もまたマリーにだけ聞こえるような声量で言葉を返す。
皇帝陛下並びに公爵令嬢としての姿でお店から出ていったらどうなるか。
その結果は火を見るよりも明らかだろう。
「……ッ!?!?」
「こ、皇帝陛下!?」
「は、ハハハ───ッ!!!」
大パニックである。
道行く人たちが僕を見て驚愕し、慌てて道の端っこによって頭を深々と下げる。
僕はそんな光景を無表情で見つめながら腕を持ち上げる。
パチン。
僕は指を一度鳴らす。
ただそれだけで帝都中に潜む暗部たちが動き出し、僕の前に跪く。
「このお店の中にゴミ共がいる。捕まえて、牢にでもぶち込んでおけ」
「「「ハッ」」」
暗部たちは迅速に動き出し、お店の中に入っていく。
これで大丈夫だろう。諸々の後始末は暗部の人間がやってくれるだろう。長年帝国の影として行動してくれている彼らが居るのであれば何の心配もいらない。
「帰るけど良いよね?」
僕はマリーにだけ聞こえるような声で確認を取る。
「構わないわ。この状態で帝城に戻らないって選択肢は見つけられないわよ」
僕とマリーは誰もいなくなってしまった道の中心を歩いて帝城へと向かった。
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