第8話

 アルビナ帝国の第三皇子。

 皇族専用の馬車に乗る僕を迎え入れるのは帝国臣民の万雷の拍手と歓声である。


「……」

 

 僕は笑顔を浮かべて周りのみんなに手を振り、愛想を振りまく。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!」


「第三皇子殿下ばんざぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああい!!!」


「アルビナ帝国ばんざぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああい!!!」

 

 民衆の張り上げる黄色い歓声。

 帝都では今、恐らく民衆たちが自作したであろう紙吹雪が舞い散り、ボランティアで集まってきたらしい民間の音楽隊が派手な音楽が鳴り響き、完全に僕の帰還一色に染められていた。


「……こ、これはありえない……。て、帝国は何もしてないのよ?」


 僕の帰還は急遽決まったことであり、帝国側が何かを行って派手に凱旋する予定が建てられていたわけではなかった。

 しかし、それでもなお派手な凱旋が今、目の前で広がっていた。

 民衆たちの熱気のせいで、かつて何度も行われていた僕の父、皇帝の凱旋よりも派手に見える。そう錯覚させられる。

 それほどまでの熱気が今、帝国に渦巻いていた。


「こ、これほどまでの民衆の支持は……」

 

「言っておくけど」

 

 僕は呆然としているサーシャに視線も向けないままに口を開く。


「僕は決して兄が相手でも譲歩するつもりはないよ」


「当然のことです。皇族は民衆のためにあるもの。私も第二皇子殿下の下につくことを強要し、政治に関与してくださいとまで頼みません」

 

「……」

 

 ゆっくりと動いていた僕の乗っている馬車が帝城の中へと入り、民衆たちの視線から僕は開放され、笑みを消す。

 僕の進む先。

 そこで待っているのは僕の兄である第二皇子だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る