第16話

 ミリアをちょっとした用事のために奴隷商の方へと向かわせ、久しぶりにマキナと二人きりになった日。


「……やっぱりマキナの不幸は最大レベルだな」


「……ごめん」

 

 買い物を楽しんでいた僕たちはエゲツないまでの面倒事へと関わることになってしまった。


「ァアン?なんだァ?テメェッ!!!舐めんてのがゴラァッ!!!」


 スキンヘッドの大男……服にベッタリとマキナの持っていた食べ物がついた男が僕とマキナを睨みつけてくる。


「まぁ、まぁ」

 

 僕はスキンヘッドの大男の前に立ち、口を開く。


「アル殿……」

 

 この街で、僕が来るまで唯一のSランク冒険者だった優しそうな傷だらけの男、マーベスさんが僕の名前を呼ぶ。

 スキンヘッドの大男……つい最近この街に来たと聞いていたSランク冒険者はマーベスさんに絡み……多分ボコしたのだろう。

 マーベスさんは満身創痍で、スキンヘッドの大男は返り血を浴び、遠巻きに見ている殺気立っている民衆。

 これらを見れば容易く想像出来る。


「さっさとそのクセェ口を塞げや、雑魚。話はそれからだ」

 

 僕は周りの人間の期待に答えるように口を開く。

 余所者である目の前の男……だが、僕も普通に余所者なのだ。まだこの街に来て一年も経っていない余所者。

 冒険者が集まり、余所者が多いこの街でも余所者は街の人間から嫌われる。

 こうして威張り、荒れている男を叩き潰すことで僕は名実ともに真の意味で街の人間からこの街の人間であると万人から認められるだろう。


「ァッ!?テメェ!誰に向かって口を聞いていやがるッ!!!」


「そんなもの。こっちの台詞だ。お前こそ誰に向かって口を聞いている?この街一の冒険者たる僕に向かってそんな口の利き方とは……随分と偉いみたいじゃねぇか。口のクセェ禿げたクソ雑魚の癖に」


 僕は不敵な笑みを浮かべ、スキンヘッドの大男の前に立つ。


「舐めんなァガキッ!!!」


 スキンヘッドの大男は一切の躊躇なく僕に向かって拳を振るう。

 『神より宿し天命』により、ステータスが底上げされた男のたった一発の拳は人を殺すには十分すぎるほどの力を持つ。


「少しは相手との力量差を見たらどうだ?」

 

 僕は手に握られているスキンヘッドの大男の右手を地面へと落とす。


「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 スキンヘッドの大男は無くなった自分の右腕……血の吹き出すずいぶんと短くなった右腕を押さえ、悲鳴を上げる。

 僕はただスキンヘッドの大男の右腕を掴んだだけである。


「クセェ口防げや、ゴミ」

 

 僕はスキンヘッドの大男に自分の靴をねじ込み、口を強引に塞いだ。

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