僕と暫定ハネアリの十五分
和菓子辞典
和菓子辞典と虚ろなハネアリ
今夏は到来の早いぶん大したことがなく、今のところ害虫とも出会っていません。今年の害虫シリーズどうしようかなと悩んだりして、正直なところ僕も慣れてきていて。彼らとは一定の信頼関係が築けているのかもしれませんし、あるいは熱湯かけ流し殺虫を覚えた安心感からかもしれません。
そういうわけでしたが、今朝一番厭なことがありまして、葬送をしようと思います。
今朝というのはまさについさっき、僕が土日のいつも通り、すき家の朝食をいただきに行った時のことでした。行く道は涼しく過ごしよくて、朝の道路も空いていて遠くが見えました。京都ですから、まっすぐ山が見えるのです。
目当てのすき家に行き着いて、気圧差で戸が重いのがちょっとカ〇ジみたいで面白くって。入ると早起きな人たちの静けさがありがたくて。
それでいつもの席に着いたとき、暫定ハネアリを見つけました。
それは卓の右上を、へなり、へなり、つくばっていて僕がどうこうするまでもありませんでした。灯りにぶつかったのか、腹が大きすぎるのか、どこか欠損した様子もなく、しかし真ん中から下はぴくりとも動かず、前足だけで滑っています。
僕はやっぱり慣れてきたのかもしれません。それをじっと観察して、どうなるか眺めていました。どうなるか疑うところなんてないのに。
それで、そいつがぱたり、横転したとき「はぁ」としました。そいつは一回身を縮まして、その後、ふ、と伸展したのです。逆ではありませんでした。苦痛に力んだ屈筋が今際、ほどけたのでしょうか、体長が伸びたのです。
僕は、死を見たのが嬉しくなってしまいました。それから数秒も、なんて虚しく沈黙してしまうんだろうと、箸が止まっていました。そう、ご飯を食べにきたんだった。我に返って、なんとやな人間性だろうと思いました。
そして僕はその少しあと、また人間を失くしました。ハネアリは生きていたのです。どうなったかなと見たら、足をこちょこちょ動かしていて、何か大気中の細かいものを急いで貪るみたいで。興味深い一方、これじゃ死が見られない、見せてほしい、悪性の心地がありました。
しばらくすると僕は食べ終えてしまって、とりあえずその時には、虫は動かなくなっていました。でももしかしたら生きているかもしれません。つまり僕は死を見ていないのかもしれません。
それが悔いとして残響する限り、悪性でしょう。ここにはハネアリではなく僕のそれを弔おうと思います。読んで下さってありがとうございました。
僕と暫定ハネアリの十五分 和菓子辞典 @WagashiJiten
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