3 お嬢さまとセバス

 新たなるモチベーションを手に入れたらしい元・燃え尽き症候群の二人を加え、私たちが次に向かったのは隣のクラス。A組だった。


「二葉さん、ここにも凄い選手がいるの?」


 二葉さんはまたあの返事とあの仕草をすると、教室の中へと視線を巡らせる。


「いないですね。ではおびき寄せましょうか、四谷さん伍井さん?」


「ラジャー」と敬礼して、声を揃える二人。

 いつの間にか出来ていた連携に、なぜか私は悪寒おかんを感じた。


「――って、やっぱりこれなんだ⁉ んあっ、で、でも、なんでこんなことでっ……?」

「すぐにわかりますよ」


 そう言って二葉さんは、あらゆるところを触られる私の隣で眼鏡をくい上げする。その直後。


 ドドドドドドドドドッ!!


 とてつもない勢いで、何かがこちらに向かって来るのだった。

 それはそれは、誰かこの廊下に牛や猪の大群でも放したのかと思うくらいの轟音だった。


「ゲホッ、ゲホゲホッ……ふぁ⁉ か、可愛い?」


 もくもくと巻き上がった塵埃じんあいの切れ間から少しずつ正体を見せたのは、まさかまさかの、とびっきりの美少女だった。

 もっと野生児のような子を思い描いていた私は、眼前に現れたプロポーション抜群の美少女に拍子抜けをする。


 艶やかな金色の髪と、美しく澄んだ青い瞳、それからモデルのようにスラリと伸びる手足。その体型を邪魔しないAカップ。美少女の完全体だった。


 わぁぁ可愛いっ。え、でも、こんな子があの轟音を?


 嫌な予感しかない。今までのこともあるし、私は身構えることにした。


「来ましたね三波凜々果みなみりりかさん」

「あら眼鏡さん、ワタクシをご存じですの? なら話は早いですわ。このワタクシを、あなたたちの仲間に入れなさい?」

「へ?」


 いいの⁉ 無条件で入ってくれるとか、急展開なんですけど⁉ って、何を私は喜んでいるんだか。ばかばか。


「ほら、手を止めないでちちくり合いを続けなさい。そして出来ましたらワタクシのも……」


 それだけ言うと、三波さんはポッと頬を赤く染めた。

 いや可愛いけれど、めっちゃ可愛いけれど、言ってること変態だからね?


「あっごめーん。私たち貧乳には萌えないんだぁ。ね、茉鈴?」

「そ。だからこれで勘弁して?」


 伍井さんが見せつけるように私の太ももを撫で回すと、四谷さんは私の胸元でいやらしく手を動かす。


「だ、だめだって、こらぁ……」


 あまりの執拗さに力なく抵抗していると、また聞こえてくるのだった。

 今度は大きな叫び声だった。


「おじょーさまあああ! ご学友になんて破廉恥はれんちなことをしているのですかあああ!」


 待って! 恥ずかしいから大声で言うのはめて!

 廊下の向こう側にいる人たちにはまだ、この状況はバレていないのに!

 廊下の向こう側にいる人たちイコール、私のクラスがあるところなんだからね⁉


「申し訳ありません。うちのお嬢さまが、とんだご無礼を」


 けれど何だかんだ、その長身の男性に私は助けられる。まるでダンスをエスコートするように、男性は私の手と腰を取ると、無礼を働く二人から引き離してくれたのだった。

 なんだか私がお嬢さまになった気分じゃないのよ、これ。


「あの。もういいですよ、離してくださ――」

「お嬢さまはつい先日、職務の合間を縫って作業していたわたくしめのパソコンを勝手に弄られてから、妙なご趣味がついてしまわれたようで。嗚呼! あなたさまが私めのお嬢さまだったら、どんなに毎日が楽しいことでしょうか……パソコンでの作業も要らなくなりますし」

「ひ! 離してください!」


 パソコンで何の作業しているのよっ、しかも職務中に!

 というか、お嬢さまが変態になったのは間違いなくあなたの所為だからね⁉


「ずるいわセバス! ワタクシもその子に身体をこすり付けたいのに!」


 嗚呼セバス……。私は、あなたが過ちを犯す以前のお嬢さまとお友達になりたかったわ……。

 物欲しそうに指をくわえる三波さんを見ながら、私はそう思うのでした。


 わーん! ここにいるメンバー全員、変態しかいないじゃないのよ~!

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