第15話 間違った恋
「……風太君を狙うのはわかりますが、どうして私や真姫さんにまでそんなものを……」
「惚れ薬であたしの事好きにさせれば下僕にできるでしょ!? 正直に言ったんだからはなしなさいよ!?」
この期に及んで上から目線で絵里が暴れる。
おかげで足首を掴んでいる風太からは毛玉の付いたくたくたパンツがちらちら見えた。
本能的に視線が上を向きそうになるが、風太は椿一筋だ。
鋼の精神力で床を向いた。
「えらいですよ風太君。あとで私のを見せてあげます」
「本当!」
「じゃあついでにオレのも!」
「……真姫さん?」
「じょ、冗談だって、あはははは……」
「ちょっと! 遊んでないではなしなさいってばぁ!?」
「隙あり」
ばぁ! で大きくなった口に、すかさず椿はクッキーを捻じ込み、吐き出せないように口を塞いだ。
「ん~!? ん~!?」
「絵里さん。食べ物に異物混入はさすがにやりすぎです。自分のしようとした事をしっかり味わって反省してください」
「ん~~~!?!?!?!?!?!?」
抵抗むなしく、絵里はそれを飲み込んだ。
「けど、食わせちまって大丈夫だったのか?」
絵里を開放すると、少し心配そうに真姫が聞いた。
「僕たちに食べさせようとしたんだよ! 何が起きても自業自得だと思うけど!」
「惚れ薬だそうですから。おまじないの本でも読んで体毛だのイモリのしっぽだのを入れたんじゃないですか? 悪くても、精々お腹を壊すくらいでしょう」
それを聞いて風太はぞっとした。
椿のならともかく、他人の体毛を食べさせられるなんて冗談じゃない!
「お、おぇええ、くっさぁぁあ!? まっず!? なんて事してくれんのよ!?」
「うっ、くっさ」
息が臭いのか、目の前で叫ばれて椿が顔をそむけた。
「……うそ、うそうそうそ!? ど、どうしよう!? そんな、転校生の顔見ちゃった!?」
急に絵里が慌てだす。
「なんですか急に。私の顔を見たらなにかまずい事でも?」
「まずいに決まってるでしょ!? 惚れ薬なのよ!? これを摂取してから見た相手の事を好きになるって言われてるんだから!?」
「言われてる? つまり、共犯者がいると?」
ハッとして絵里が口を押えた。
「し、知らない! そんなの言えないわよ!」
「つまりいるという事ですね。その方とも話し合う必要があるようです。さぁ、観念して誰か教えなさい」
逃げようとする絵里の手首を掴み、椿が壁に押し付けた。
「ぁんっ」
絵里はびっくりするような甘い声を出した。
頬はぽうっと赤くなり、涙で潤んだ瞳がとろりと椿を見つめる。
「……絵里さん? まさかあなた……」
「ち、違うわよ! しょ、しょんな、あんたにゃんか好きになるわけ――ひゃぁん!?」
椿がさりげなく下半身に太ももを押し付けると、絵里はびくりと腰を浮かせて喘いだ。
「……マジですか」
「えっと、何が起きてるの?」
「花巻君はわかんなくていいから!?」
絵里は今にも泣きだしそうな顔だ。
「なんで、どうしてよ……。あたしは花巻君の事が好きで、あんたなんか大大大っ嫌いのはずなのに! なんでこんなに胸がドキドキしちゃうのよ!?」
メスの顔になった絵里を見て、椿の目がギラリと光った。
ドンっ! と壁に手を付く。
「ひぃっ!?」
びくりとする絵里の耳元に唇が触れるくらい近づけ、色っぽいセクシーボイスで囁く。
「それは絵里さんが私に恋をしてしまったからでは?」
「ふにゃああ……」
びびびっと背筋を震わせると、絵里は腰が抜けたようにその場にへたりこんだ。
「……まさか、本物の惚れ薬だったとは。間違って食べていたらと思うとゾッとします」
絵里の変貌を見れば、風太も同じ気持ちである。
「くぅっ! つ、椿ちゃんなんか、す、好きじゃないんだからね! 覚えてなさい!」
ゴキブリみたいに這い出すと、絵里は膝をガクガクさせながら逃げ出した。
「……で、どうすんの?」
困った顔で真姫が二人に視線を向ける。
「もちろん追いかけます。惚れ薬とやらを用意した人間に泣きつくはずですから」
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