クン・ナムア・エンの魔崩陣

大黒天半太

1 クン・ナムア・エンの魔法の館

 古の忌まわしき魔道士クン・ナムア・エンの館は、モニターの中で陰鬱たる全景を現していた。

 闇と静寂が支配する館の外観は、待ち構えている死の顎そのもののようだ。



 そのゲームは、クリア出来ないのではないかと囁かれ始めていた。


「貴方は、魔道師クン・ナムア・エンの遺産へ到達する鍵である、魔道書を手に入れた。古城と魔道書の謎を解き、隠された遺産に貴方は至ることができるだろうか?」


 クトゥルー神話を元ネタにしたらしい、そのホラー・アドベンチャーには、マニアックなファンが付き、攻略・詳解・情報交換サイトが林立し始めた。各階層の攻略法は出始めているものの、未だに全クリアの報告は無い。


 公式サイトには、米東部時間で午前零時、前日までのランキングが表示されるが、地上五階、地下九層の迷宮の攻略レベル以外にも、各種フラグの対応でも、ポイントが決まるらしく、より深く進んでいるプレイヤーでも、ランクが高くなるとは限らない。


 無論、批判のサイトもある。


 本当は未完成だから、わざとクリアできなくしてあるのだ、とか。こっちの部屋でビヤーキー召喚、あっちの部屋で食屍鬼グール出現では、いくらコアなファン作成でも、節操とバランス感覚が無さ過ぎる、とか。



 キャラクターが死ぬか、古城が崩壊すると、ゲームオーバー。

 実時間で丸一日24時間経過するまで、プレイが再開できない。


 クリアを諦め、狂気と恐怖を楽しむと称して、珍妙なプレイを極めようとする者も続出した。


 攻略サイトの情報を駆使、アイテムや召喚される魔物や迷宮の崩壊フラグを逆手に取り、必要最小限のアイテムだけ取って、最速で迷宮を駆け抜ける。

 アイテムや召喚は使い切って、次の階層の魔物やトラップに拮抗させ、連鎖させて、自分の通過と同時に、館を崩壊に導く、というプレイもあった。


「見事でしたね。複雑な移動で三竦み、四竦みを作ってから、階層ごと崩壊させて無効化とは。最下層の時点で、ビヤーキーの召喚回数が残ってれば、脱出してゴールできたのに」

 モニターしていたスタッフが、感嘆する。


「では、今日は、この方法を試して来る」


 コートと本物のクン・ナムア・エンの魔道書を手に、男は立ち上がった。本物のクン・ナムア・エンの館へ、向かうために。

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