四話 【牛丼が食べたい!】
取り敢えず安心出来る状況に惣一郎はホッとし、騎士達はテキパキと動き出す。
「馬の手当が終わったら野営の準備だ!」
血だらけだった馬も一晩安静にすれば明日には出発出来るそうで、騎士達も酷い怪我だと思っていたが、みんな良く働いている。
見た目より軽傷だったのだろうか?
あの塗りたくっていた薬の様な物がすごいのか、恐るべし異世界!
惣一郎は作業中の騎士達の会話に聞き耳を立てながら、グルピーの解体を見学していた。
「今回の報酬でやっと装備を新調出来そうだ。お前も家族に胸張って会えるな」
「まぁな、お前もとうとう[レアメタルの剣]を手に入れるのか…… 家族持ちの俺には200ギーなんて大金、流石に手がだせん! 団からの補助金があったとしてもな」
「いい武器がありゃ今後の依頼も楽になるし、その為に宿代ケチって女の家に居候して貯めた金だ、絶対手に入れてやるぜ」
200ギーでこの騒ぎ、1500ギーもあればしばらく暮らせる額に違いない。
手際良く見えた騎士達の解体作業も、終わる頃にはすっかり空は暗くなっていた。
焚き火を囲み、分けてもらった食料を作った笑顔で胃に流し込む惣一郎。
人の好意に対して絶対に、マズイ顔をしてはいけない。
耐えろ、惣一郎!
電気のない世界で夜空を彩る星空は、焚火の明かりをも掻き消していた。
暗くないと寝れないタイプなんだが......
見張りを買って出てくれた騎士達を横目に、深い眠りに落ちていく惣一郎。
そう言えば夜勤明けだっけ...... Zzzz。
翌朝、もらったパンを岩で割り、笑顔で食べる。
「馬も行けそうだ、夜には街に着くだろう」
異世界での食事に期待はできなそうだ……
支度を整え町に向け歩き出す一行。
体力のない惣一郎は馬車の中で、服や革靴をキラキラした目で見る商人と向き合っていた。
「そちらは、いくらで譲っていただけますかな?」
あはは、好きにしてください。
森を抜けると草原が広がっており、遠くに集落らしいものが見え始める。
その近くを通ると集落の人達が、何かを売り込もうと馬車の周りに集まってくる。
驚いたのは人種の豊かさだった。
白人はもちろん、黒人、アジア系と自分に似た人種もいるし[エルフ]や[ドワーフ]、[獣人]と色んな種族が共に暮らしていた。
初めて見る種族に、興奮する惣一郎。
さすが異世界!
道脇では焼いたカエルの様なものを売る人や、羊の様な動物を売る人。
籠や陶器類に若い娘は春まで売っているそうだ。
2、30年後には、俺好みになりそうだが......
ジュグルータさんの勧めで焼いたカエルの様な物を食べてみる。
予想通りチキンに近く、異世界で初めて食事らしい食事が出来たが、味の濃い牛丼が食べたい……
異世界の食事に期待してはいなかったが、一晩で故郷の味が恋しくなった俺にはネットショップスキルがある。
金さえ有れば!
町が近づくにつれ通りには、武器を持った冒険者風の人達とすれ違う様になる。
異世界ならではの光景にテンションが上がる。
「惣一郎殿は身分証はお持ちかな?」
身を乗り出し外を見る惣一郎に、ジュグルータさんが話しかける。
はい出ましたお約束。
身分証代わりに、冒険者登録した方がいいとか言い出すんでしょ!
僕は戦闘しませんよ、残念!
身を危険に晒してお金稼ぐとか、俺には無理っす無理無理。
まったりスローライフがしたいんです!
スキルもそっち寄りですし。
でもスキルの説明すんのも危険だよな……
「お持ちでなければ、街に入るのに5ネルほどかかるんですが…… まぁここは私が持ちましょう。屋敷につけばグルピーの代金とそちらの服の代金を合わせ一緒にお支払いしますので、しばらくお金には困らないでしょう。ただ身分証は作っておいた方がいい、国へ帰るまでは必要になるでしょうし」
......
ジュグルータさんの話は聞いていたが、惣一郎は窓の外に興味を向けていた。
「あっ失礼! あの冒険者の後ろの方たちは?」
武器を持った冒険者の後ろを、みすぼらしい格好の男が大荷物を背負い歩いていた。
「あぁアレは奴隷ですね。冒険者がつれてるなら戦闘奴隷でしょう。奴隷をご存じないとは余程遠くから飛ばされて来たのかも知れませんな」
「初めて見ました。私の国に奴隷制度はないので……」
「アレはアレで便利な物ですよ、危険な戦闘をさせたり、責任は生まれますがパーティーを組むなら報酬を分ける事もありません。身の回りの事もしてくれるし秘密も守ります。まぁ恩恵は色々と。本人達も奴隷に身を落とした時点で覚悟はしてるでしょうし、身を落とす理由も様々ですがね」
「人として扱っている様には見えなかったのですが……」
「買われた先にもよるでしょうが、奴隷ですからね」
惣一郎はこの世界に来て初めて、味わった事ない感情に気付き、苛立ちに似た物を覚えた。
行動次第では俺も、ああなる可能性もあるのか……
早く牛丼食べたい......
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