三話 【オッスオラ惣一郎!】

肩で息をする惣一郎に続き5人の騎士達もその場に腰を落とし、肩を揺らし始める。


「助かった〜!」


金髪の男が放った言葉は日本語だった。


「死ぬかと思った」


「まさに毒を以て毒を制すだな」


「なんて運が良いんだ!」


5人目の男は黙って呼吸を整えている。



落ち着きを取り戻すと傷の目立つ使い古した鎧の男が、惣一郎に話しかけて来た。


「俺はこの馬車の護衛にあたっている[ガルムリート騎士団]副団長の[エリン]だ。君は…… 随分と変わった服を着ているが、この[ススの森]で何を?」


金髪の髪を後ろで束ねる髭ヅラの白人ぽい男が、肩を揺らしながら状況を理解しようと質問して来る。


「いや…… それが自分でもさっぱり分からないんですが、あっ俺サトウ、佐藤 惣一郎って言います」


惣一郎の答えにハッと驚く騎士達。


「失礼しました! 貴族位の方とは……」


短髪赤毛の騎士が慌てると、他の四人も姿勢を正そうとする。


「いえいえ貴族とか、そんなんじゃ無いです!」


これアレだ、貴族しか苗字ないとかそんな奴だ。


「そ、惣一郎です、惣一郎。惣一郎が名前です![サトウ]から来た、みたいな...... あはははっ」


厳しいか......


不思議そうな顔をする騎士達。


「団長、もう出ても大丈夫かな?」


馬車から鮮やかな緑に銀の刺繍を施した、派手な服の中年の男性が顔を出す。


騎士達が護衛している人だろう。


我に帰る騎士達が重い腰を上げる。


「ええ、もう大丈夫でしょう。[エリン]周辺に気を張っておけ。お前は馬の手当てを!」


ここまで黙っていた白髪の騎士が、テキパキとその場を仕切り出す。


歳も一番上っぽい体格の良いこの騎士が、団長なのだろう。


「初めまして。私は[ムイの町]で商いをしております[ジュグルータ]と申します。彼はこの騎士団の団長[ガルム]。この街道でオークに襲われるとは、此度はお互いに災難でした。神が誰も見放さなかった事に今は感謝しましょう」


やっぱりアレがオークか......


「あっ初めまして! 助けて頂きありがとうございます。サトウから来た、惣一郎といいます」


「サトウ? はて…… 聞き覚えのない名ですが、町の名ですかな?」


「えっ、ええ! そう町の名です! それが私ここが何処かも分からない状況で…… 気付いたら森の中って、あはははっ」 


やっぱ厳しいか?


すると団長のガルムが難しい顔で話し出す。


「もしかしたら、ダンジョンか遺跡の転移トラップにでもかかって飛ばされたのかも知れませんね。記憶も曖昧になると聞いたことがあります」


おお〜 グッジョブ団長!


「とにかく助かった! 惣一郎殿が[グルピー]を引っ張って来なければ、我々はオークにやられていただろう。団を代表して礼を言わせてくれ」


自分だけではなく、この人達も助かったと言う事らしいが...... 


グルピー?


「ここは[マイセルージ大陸]の西に位置する[ノイデン共和国]のススの森です。聞き覚えはありませんか?」


「いえ、全く……」


やっぱ異世界でした。


本気で意味がわからん!


「まぁ、街に行けばサトウを知る者もいるやも知れません。この先のムイの町まで御一緒しましょう。助けられた礼もしませんと」


おお、助かる。


見知らぬ土地での人の優しさに、マジ泣きしそうな惣一郎。


「はい! よろしくお願いします!」


「ところで惣一郎殿…… この白いグルピー、譲って頂きたいのですが」


「グルピー?」


「ええ、グルピーでも白は希少種! 毛皮は破格で取り引きされております。1500ギーで買い取らせて頂きますが、いかがでしょう?」


やば、情報が多すぎる!


グルピー? 希少種? ギー? 


この白熊が売れるのか? 


この世界のお金だろうギーの価値もサッパリだが、行くあての無い無一文の俺には渡りに船! 


快諾しておいて問題はないだろう。



「はい喜んで〜」





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