二話 【説明ないんですか?】

茂みの中で震えてどの位の時間が経ったのだろうか…… 惣一郎の額には汗が光っていた。


マジで無理なんですけど......


伝説級の武器を持っていたとしても、アレを倒せるイメージが湧かない。


ゲームで言う[オーク]だろう序盤の雑魚に、いまだ震えが止まらない惣一郎。


だがいつまでもここで隠れてる訳にはいかないと、両足に力込め、茂みをそっと出る。


マズイ、森は危険だ!


早くここから出なければ。


だが出口もわからない...... どうする? 


木に登って見渡せれば...... 無理!


運動が苦手な惣一郎に、この森の大きな木は登れない。


患者の保険証の確認もまだだし、日付が変わってからゲームのログインボーナスもまだ貰ってはいない。


そもそもスマホも何も持ってないと、パニックになる惣一郎。


兎に角、あのオークから離れねば!


混乱する惣一郎は緑の巨体が消えていった方向とは逆を、静かに低い姿勢のまま、澄んだ森の中をあてもなく進む。


静かな移動を意識しすぎて、惣一郎の頭は真っ白になっていた。




しばらく進むと微かに水の音が聞こえてきた。


この音が川なら、この森を出られるかもしれないと喜ぶ惣一郎は立ち上がり、茂みから顔を出す。


すると目の前に森に居るはずのない白熊と目が合う。


水音へ気を取られ、警戒心を忘れた惣一郎痛恨のミス!


「グルルル」っと喉を鳴らす大きな白熊が、こちらに体を向ける!


森に白熊? 


なんて疑問も瞬時にかき消され、両足の感覚も同時に消えていく。


腰が抜け座り込む惣一郎に白熊は、ゆっくりと近付き、二本の足でのそっと立ち上がる。


巨大だったソレが、さらに大きな影を惣一郎に落とす!


終わった……


大きな口から無数の牙が覗き、目の前のご馳走にいただきます!っと声を天まで轟かせる!


ガオーーー!!


迫る巨大な白熊の影に押され防衛本能からか後ろへと仰反る!


そこに抱え込もうと放たれた白熊の爪が空を切る!


異世界に来てものの数分で、絶体絶命のピンチを迎えた惣一郎!


だが運命は惣一郎の味方であった。


草むらの中の蔓が白熊の爪に絡み、生い茂る枝が白熊と惣一郎の間に巻き込まれ倒れ込む!


意味も分からず喰われてたまるか!


一瞬の隙が生まれた事で、惣一郎は身を翻し、茂みの中を這いつくばって逃げ出す事が出来た。


だが白熊も瞬時に茂みに飛び込む!


惣一郎に考えてる余裕はない。


必死に手足で地面を引っ掻き、茂みの中をがむしゃらに逃げる。


確実に追ってくる真後ろの白熊。


すると幸運にも拍車がかかり、茂みは急な勾配を見せる!


茂みの中を前に転がり急な下りを落ちて行く惣一郎。


だが白熊も簡単には目の前に現れたご馳走を諦めてはくれない。


短い足で不器用に坂を降り追いかけて来る白熊。


惣一郎に熊が下り坂に弱いなんて知識は無く、ただ運が良いだけの結果だったが、距離は少しづつ開いていく。


それでも白熊は確実に追って来ている。


白熊が追って来てる事まで気が回らない惣一郎だが、追いかけて来るかもという恐怖だけが突き動かしていた。


坂を必死に転がる傷だらけの惣一郎。


その目の前に道が見えた!


道には黒い馬車が停まっている。


馬車だ! 人がいる!


必死の惣一郎には終点に思えた。


「たっ、助けてください!」


息が上がり掠れた声を張り上げる惣一郎が、木々の隙間を転がり馬車の前に出る!


だがそこには、血を流した馬二頭と傷だらけの騎士風の男達が、無骨な大きな剣を持った緑の巨体と剣を向け合っていた!


ま、マジか......


剣を向け合う傷だらけの騎士達と、緑の巨人が突然の来訪者に驚き固まっている。


その固まった時間を動かしたのは、遅れてやって来た巨大な白熊であった。





白熊は苦労して追いかけて来たご馳走を取られると思ったのか、現れるや真っ直ぐにオークに襲いかかる!


突然の事で出遅れたオークだったが、右手の大きな剣で白熊を叩きつける!


騎士達は状況が分からずに混乱している。


白熊がオークの左肩に深く牙を食い込ませ、白く太い両腕でオークを抱きかかえ、オークも大きな声を上げる。


振り下ろされた剣は何度も白熊の背に剣の柄を叩きつける!


白熊もオークの自由を奪うのに必死に喰らいつく!


グギャーっとオークが吠えた次の瞬間!


「今だ!」っと沈黙を破った傷だらけの騎士達が、抱き合う二匹へ剣を突き刺す!


オークの背から入った剣は白熊の胸を貫き。


白熊の背から入った剣はオークを突き刺す!


二匹の巨体は抱き合ったまま、静かに崩れ落ちた。




心臓が破裂するほど息が上がっていた惣一郎は、忘れていた呼吸を思い出し、大きく肩を揺らし始める。


「ハァハァハァ、誰か…… 説明してくれ……」






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