五話 【都合良すぎでしょ!】

草原の奥には岩を背丈まで積み上げた壁が出来ており、手前にはテントが幾つも並んでおり、人の影が見える。


町に入れない人達のキャンプの様な物らしい。


その奥、岩壁を境に木造の建物が広がる。


馬車は目的地、ムイの町に着く。


岩で作られた門と丸太のバリケードが馬車の前を塞ぎ、武器や防具に身を包んだ門番達が馬車を止める。


「ジュグルータさん! お戻りで?」


声をかけてきた門番に馬車から顔を出し、商人が答える。


「ええ、今もどりました。連れが一人いるので町に入れてもらいたい」


差し出した銀色の硬貨に、門番も察したのか馬車の中を覗き込み、惣一郎を舐める様に見る。


「わかりました。ジュグルータさんのお連れなら問題はないでしょう」


門番はお金を受け取り、他の門番に顎で指示を飛ばすと丸太のバリケードが開かれ、町の中に入って行く馬車。




二階建ての木造の家が密集し、メインストリートだろう道の両脇には露店が並び、賑わいを見せていた。


初めてばかりが目に飛び込み興奮を隠せずにいる惣一郎は、騎士達や商人にはさぞ不思議に映ったのだろう。


「大きな街ではないですが、気に入っていただけたようで!」


エリンが馬車から身を乗り出す惣一郎に話しかける。


そりゃ、興奮しますよ! 映画やアニメの光景じゃん、何処から来たと思ってんのよ!


街中を少し進むと、前から小綺麗な格好の青年が息を切らしながら近づいてくる。


「ジュグルータ様、おかえりなさい!」


青年は傷ついた馬や騎士を見て察したのか、心配そうな顔になる。


「ススの森でオークに襲われましたがこの通り、皆無事です」


目を丸くした青年から続く言葉はなかった。


「お客様を迎えると屋敷に伝えて下さい」


「かしこまりました」っと、返事をする青年が走り去って行く。


賑やかな街並みから少し離れると、大き目な家が増えてくる。


その中でも立派なお屋敷を指差し「さぁ、着きましたよ」っと、ジュグルータさんが馬車の中の荷をまとめ出す。




屋敷の前に慌ただしく並び出すメイドを見て、テンションが上がる惣一郎。


メイドきた〜!


馬車を降りたジュグルータさんがメイド達に指示を出し、騎士達も荷解きを手伝い始める。


ひとり場違いな惣一郎に白髪の使用人が「こちらへ」っと、屋敷へと案内する。


「まずは、ゆっくり休みましょう!」


ジュグルータさんは大事そうに白熊の毛皮を抱え、屋敷の中へと消えていった。


案内された部屋では着替えと体を拭く湯が用意されており、本当ならシャワー浴びてさっぱりしたい惣一郎だったが、桶の湯で体を拭き始め、ややきついが着れない事もない異世界の服に着替える。


着心地は...... まぁ慣れなのかな?


街で見た人達と比べると、小綺麗で高そうな服であった。


タイミング良く入ってきたメイドが、軽い食事をテーブルに置くと惣一郎の着ていた服を畳み、軽く頭を下げて持って行く。


異世界のサンドイッチは、道中食べた食事とは比べ物にならず、あっという間に完食すると、またタイミング良く執事が現れる。


「ご挨拶が遅れました、わたくしこの家の執事長をしております[ニール]と申します。惣一郎様、此度は主人の危機に御助力頂き、誠に感謝致します。お疲れなのか主人は、このまま休まれるそうなので、惣一郎様も今日はこちらでごゆっくりお過ごし下さい。何かあればこちらのベルで何なりとお申し付け下さい」


白髪の執事は丁寧に頭を下げ、話を続ける。


「なんでも惣一郎様は、転移トラップで遠くから飛ばされたそうですね…… 転移魔法は失われた魔法ゆえ謎も多く、過去には記憶を失った者もいると聞きました。何かお困りの事ございましたら、このニールが、微力ながらお役に立てればと思いますので何なりと」


おっ、ありがたいなその設定! 頂きます。


「ありがとうございます。ホント記憶が曖昧で、覚えている事もあるのですが…… その… 常識的な事がちょっと飛んでるっぽくて」


食事と一緒に出された紅茶に似た物を飲みながら惣一郎は執事に陽が落ちるまで質問を繰り返した……






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