第十章、正義感
ミヅキが犯人だと判明して二日目が経過した。
どのようにしてミヅキを殺そうか、そんなことを考えているのだが、色々と問題も発生していた。
まず最初にミヅキが部屋に鍵をかけて出てこなくなってしまった。こうなってしまうと前に考えた方法でミヅキを殺すことは不可能だ。
それに加えてミヅキは殺した相手の食料を全て回収している、それに対して俺はエレナから貰った食料が底をつきかけていた。このままでは俺が先に餓死してしまうだろう。
──部屋に籠城している相手を水で殺す。
俺にはその方法が全く浮かばなかった。
考えていても仕方ない、気を晴らす意味もかねて俺は野草を採りに出かけた。
館の外に広がっている森はそれほど広いわけではない、当然だが採れば採るほど食べれる野草は少なくなっていく。
──ふと横を見るとピョンピョンとバッタのような昆虫が飛び跳ねていた。
「……。」
今まで抵抗があり食していなかったが、いよいよ食べなくてはならないときが来たのかもしれない。
ゆっくりと近づき、ガバっと両手で包むと鍋の中へ昆虫を入れた。
そろそろ帰ろうか、そう考えていると館の方からガシャン──とガラスが割れたような音が聞こえてきた。
ミヅキが暴れているのだろうか?
まぁ無理もない、ミヅキはここ数日部屋から全く出ていなかった。風呂に入っていなければ、トイレも部屋で済ましているのだろう。
それに加えて俺に殺されるかもしれないという恐怖もある。物に八つ当たりしたくなる気持ちは痛いほど理解できた。
「……本当にこれで良いのか?」
ミヅキを殺してもエレナが戻ってくる訳ではない。天国にいるエレナもミヅキを殺した俺のことなど褒めてはくれないだろう。
ミヅキだって相当な覚悟でエレナたちを殺したはずだ。ミヅキは最後まで生き残り親の元へ帰りたいのだろう。
それに対して俺は親の元になどは帰りたくなかった。それなら俺のしていることは──。
「……ッ!駄目だ。」
決心が揺らぎそうになる。エレナを失った俺に唯一残された生きる希望、それは復讐。
この気持ちを失ってしまえば俺は空っぽになってしまう。
ミヅキを殺す。改めて自分にそう言い聞かせると俺は館へ戻った。
キィィと音を立てて館の玄関が開く。
──だが館内に入った俺はある違和感に気づいた。
廊下がびちゃびちゃに濡れているのだ。
よく見ると水源は俺たちの部屋からだった。入り口に一番近い部屋を覗いたとき俺の身体から一気に血の気が引いた。
──水槽が割られている。
大急ぎで俺は自分の部屋へ戻った。だが案の定俺の部屋の水槽も割られていた。
間違いない、ミヅキが割ったのだ。
この館のルール上、水がなければ相手を殺すことができない。俺は激しく後悔した。
ミヅキは部屋から出てこない、そう思い込み俺は自分の部屋に鍵をかけていなかったのだ。
──だが後悔をしても仕方がない、乾く前に水を回収しなくては。そう考えた俺は自分の着ていた服を脱ぎ雑巾のようにして床を拭いた。
鍋に入っていた野草と昆虫を捨てると、鍋の上でギュっとシャツを絞る。
するとジャバジャバとシャツから水が溢れだした、これならある程度だが水槽の水を回収できる。
俺は必死に床を拭いた。
「──これだけか。」
結局、水槽に用意されていた水は、鍋に収まる程度まで減ってしまった。
だが水槽の水を失ったこと以上に俺にはショックなことがあった。
──食料が盗まれていたのだ。
ミヅキが水槽を割るついでに盗んでいったのだろう……。
他の人にとってはただの食べ物だったのかもしれない、だが俺にとってあの食料はエレナから貰った大切な物だった。到底許せるような事柄ではない。
俺は今までミヅキを殺すことに対して、どこか引け目のような物を感じていた。
──だが、今回の件で俺の考えは一転した。
あんなやつ殺されて当然だ。俺は何も間違ってい。
そう確信したとき、俺の中に溜まっていたどす黒い物体は不思議な正義感のような物でフワッと包まれたのだった。
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