第九章、感情

俺の目の前にはミヅキが立っていた。足元には毒が混ざっているであろう水が鍋からダバダバとこぼれていた。

「ずっと……ここで待っていたんですか?」

「あぁ、そうだよ。」

犯人が台所に来ることは分かっていた。

俺は昨日インスタント食品を食べていない、犯人はポットの水と水槽の水を入れ替えて何か細工をしたのだろう。そう考え台所を見張っていたのだが、俺の考えは見事に的中した。

しかし、エレナを殺した犯人がミヅキだとは思っていなかった。

驚きや予想が的中した感情は次第に薄れていき、別の感情がフツフツと湧き出してくる。

──目の前にいるこの女はエレナを殺したんだ。あれだけ優しかったエレナがどうして殺されなくてはならなかったんだ?

親から捨てられ、殺し合いをさせられ、妹も失った。

「……どいつもこいつも、いい加減にしろ!」

俺の中で溜まりに溜まった物が全て爆発した。

「俺たちを捨てた両親、こんな館に子供を集めて殺し合いをさせている男、人間なんてどいつもこいつもゴミみたいなやつばっかりだ!エレナを殺したお前もだ!」

「だけど……エレナだけは違ったんだ。あんなのどう考えても俺が悪かったのに、それでも俺に食べ物を分けてくれたんだ。」

「そんなエレナをお前は殺したんだ。お前のことは絶対に殺してやる、絶対にだ!」

ミヅキも俺たちと同じ被害者の一人であることは理解していた、俺のやろうとしていることは八つ当たりだ。だが八つ当たりだとしても、この怒りを誰かにぶつけなければ俺の気が収まらなかった。

ミヅキを殺す。そう心に誓ったとき、空っぽだった俺の中身にトクトクと何かが注がれていくのを感じた。


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