第八章、犯人の視点

──予想外だった。

四人まとめて殺すはずが、一人だけ生き残ってしまった。

部屋に鍵をかけて籠ると、自分が犯人だとバレてしまう。それを避けるため館の外にある小屋に身を潜めていた。

水槽の水は鍋に入れて用意した、この水を使って残った一人も仕留めなくてはならない。

「午後10時になりました。現在の死亡者数を発表します。」

うっすらとだが定期連絡が聞こえる、だがこんな時間に寝ていることは稀だろう。

最後の一人が自暴自棄になって、水など関係なく包丁や鈍器で殺しに来る可能性だってある。できる限りそのリスクは排除したかった。

外からはザワザワと葉の擦れる音だけが聞こえてくる、時間がすぎるのをただひたすらに待った。

──行くか。

寝静まったであろう時間に館へ向かう。

玄関からは入らずに事前に鍵を壊しておいた窓から侵入した。

ドクン、ドクンと心臓の音が脳内に響く。

館内に明かりはついていないが、目が覚めて部屋から出てくることだってあり得る。そうなってしまえば全てが台無しだ。

できるだけ音を立てないよう慎重に歩いた。

──そしてようやく着いた。

台所だ。

自分の目的は台所にあるポットの中に水槽の水を入れること、そして自分が用意した水にはとある物が大量に混ざっていた。

館の外に自生していたスズランだ。スズランの毒性は非常に強く、すり潰して水に混ぜれば十分に人を殺せる。

ポットに入れておけばインスタント食品を作るときに毒入りの水を使うことになる。これで全員殺せるはずだった……のだが、誰か一人がインスタント食品を食べなかったのだろうか?

定期連絡では死亡者数が3人だった。

だが、人間は何かを食べないと生きていけない。今度こそ殺せるはずだ。

ポットの中に入っていた水を捨てると、鍋に準備していた毒入りの水を注いだ。

──その瞬間だった。

パッと台所に明かりがついた。

あまりの衝撃に心臓が止まりそうになった。手に持っていた鍋は落としてしまい、床に水をぶちまけた。

振り返るとそこにはエレナのお兄さんが居た。

しばらくの間、お互いに無言の時間が続く。そしてエレナのお兄さんはゆっくりと口を開いた。

「ミヅキ……お前だったのか。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る