第四章、平穏

「午前10時になりました、現在の死亡者数を発表します。現在の死亡者数は0名です、繰り返します、現在の──」

恒例のアナウンスは館の外にまで響いている。俺とエレナは敷地内にある森を歩いていた。

俺たちが住んでいる館の出入り口には鍵がかかっておらず、自由に出入りができる。

館の外には森が広がっており、その外側には高い塀が設置されていた。

「やはり、抜け道はどこにもありませんね。」

館から抜け出す方法がないかと、壁沿いを二人で歩いてみたのだが、そんな都合のいい抜け道はあるはずもなかった。

だが全く収穫がなかったわけではない、館の裏手には小屋があり、そこにはハンマーやスコップが用意されていた。うまく使えば、ここから脱出する足掛かりになるかもしれない。

そんなことを考えながら、俺たちは館へと戻った。

「兄さん、食事にしましょうか。」

「……あぁ。」

エレナは足早に部屋へ戻ると、俺の分を含めて2つカップラーメンを持ってきた。

「……。」

「兄さん、どうかしましたか?」

「ごめんエレナ、食欲がないから俺は後で食べるよ。」

よそよそしい態度を取る俺に対して、エレナはぐっと顔を近づけてくる。

「昨日もそう言って私と一緒にご飯をたべてくれませんでしたよね。本当に渡した物を食べていますか?」

エレナが疑いの目でこちらをジッと見つめてくる。

「もし私に遠慮をしているのでしたら、それは──」

「大丈夫だよ!」

会話を遮った俺は、エレナの持っていたカップラーメンを一つ受け取ると、ありがとうと一言伝え自室へと戻った。

「──もうこれ以上エレナに迷惑はかけられない。」

俺はエレナから貰った食べ物にはできる限り手を付けないようにしている。

だからといって何も食べなければ死んでしまう、そこで俺は館内にある書庫へ通うようになった。書庫には童話や絵本、伝記など様々な本が用意されていたが、俺はとある本に目を奪われた。

──図鑑だ。

書庫には様々な図鑑が置いてあったが、俺が今読んでいるのは植物の図鑑だ。

これで森の中に生えている植物を調べて、食べられる物があれば採るようにしている。

最初は腹を下すこともあったが、最近は食べられる物と、食べられない物の区別がつくようになってきた。

俺はエレナと必ずここを出る、あんなに優しいエレナがこんなところで死んでいいはずがない。

たとえ親が迎えに来なかったとしても、警察や他の誰かがこの場所に気づく可能性だってある。

助かる確率を上げるために、一日でも長く生きる必要があった。

俺は昨晩のうちに摘んでおいた野草を口へ放り込むと水で一気に流し込んだ。

──苦い。

だが吐き出す訳にはいかない、込み上げる吐き気を噛み殺し胃の中に野草を留めた。

そしてあとはひたすらに動かない、体力を使わないように俺はベットの上で横になった。


……この館に5人の子供が連れてこられて、3週間が経過した。

だが依然として死亡者数はゼロのままだった。このまま平穏に終わるかのように思われた館での生活にもジワリ、ジワリと暗い影が迫っていた。

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