第二章、ミヅキ

冷蔵庫に流し台、中央には大きな机もあり、目的であったポットもそこに置かれていた。

俺とエレナは台所に来ている。

お湯を沸かすため、ポットに水を入れてボタンを押した。

水が沸くのを待っていると、廊下の方から足音が聞こえてきた。

そうか、俺とエレナ以外にも3人住んでいるんだな、そんな事を考えていると足音の正体が俺たちの前に現れた。

小柄な女の子だった、髪はショートカットだが前髪が長くどこか暗い印象を受ける人物だった。

「あの……台所の方から音が聞こえたので……その……。」

おどおどとした話し方をする子だった、だが社交的なエレナは特にためらうことなく、その子に近づいて笑顔で話しかけた。

「初めまして、私エレナって言います。これから兄さんと食事の予定なのですが、一緒にどうですか?」

「……!、あ……あの、私も一緒に食べたいです!」

恐らく彼女も一人で心細かったのだろう、エレナの提案に喜んでいるようだった。私も食べ物を持ってきます。そう言った彼女は足早に部屋へとかけていった。

──カップラーメンも出来上がり、台所のテーブルには俺とエレナ、そして先程の女の子が一緒に座っていた。

この女の子の名前はミヅキと言うそうだ。

俺たちと同じで親から捨てられて、この館に連れてこられたらしい。

「エレナさんとお兄さんは仲が良いんですね。」

「はい、兄さんは面白くて、頼りになる。私の自慢の兄なんです。」

最初はおどおどと話していたミヅキだったが、今ではすっかりエレナと打ち解けている。

誰とでも仲良くできるエレナの人柄は俺も見習いたいものだ。

食事をしながら他愛もない話を3人で続けていると、ツーっという耳鳴りのような音が聞こえだした。

何の音だろうか?そう思っていると突然館内に放送が流れ出した。

「皆さんおはようございます。」

どこかにスピーカーが設置されているのだろう、驚きつつも俺たち三人は放送に耳を傾けた。

「午前10時になりましたので、現在の死亡者数を発表します。現在死亡者数は0人です。繰り返します。現在の死亡者数は0人です。それでは皆さん今日も良い一日を──」

「……。」

水を差されるとは、まさにこのことだ。

打ち解けていた三人の会話は完全に止まってしまった。

会話のない、気まずい空気が台所に流れる。

──だが、この静寂を最初に破ったのは以外にもミヅキだった。

「お二人は……どう思いますか?」

ミヅキの言葉に、俺たち二人はキョトンとする。

「どう思う……というのは?」

「ですから、今の放送です。昨日説明を受けましたよね?私達の中で最後に生き残った一人だけが家に帰れると。」

控えめな印象だったミヅキからの言葉に俺たちは驚きを隠せない。

「私は正直、家に帰りたいです。こんなところから早く出て、お母さんと一緒に暮らしたい。」

今までとは一転変わった力強い言葉にエレナは少し怯えているようだった。

だが一方の俺は──

「まぁ、大丈夫じゃないかな?」

大好きなカップラーメンを食べて空腹が満たされたからなのか、俺の気持ちは完全に緩みきっていた。

「あれだけたくさん食べのものがあるんだ、きっと無くなるまでには、お父さんとお母さんが迎えに来てくれるよ。」

俺はそう言うと、席を立ち台所から出ようとした。

「兄さん、もう行かれるのですか?」

「いや、美味しかったから、もう一つ食べようと思って。」

「えっ……。」

エレナは慌てた様子で俺の方へ駆け寄ってきた。

「駄目ですよ兄さん!この先どうなるかも分からないのに、食料は大切に食べないと。」

「なんだよ、エレナはお父さんとお母さんが迎えに来ないって言いたいのか?」

「……それは。」

エレナは言葉に困っているようだった。

「でしたら、せめてカップラーメン以外の物を食べてください。インスタント食品は日持ちするので、足の早い物から先に食べないないと後で傷んでしまいます。」

「そう思うなら、エレナはそうしたら良いだろ?俺はエレナの分を食べる訳じゃないんだ。自分の物をどうしようが俺の勝手だろ。」

「……分かりました。」

それ以上エレナは何も言ってこなかった。

俺は自室へ戻ると先程選んだ味とは別のカップラーメンを選び、再び台所へ向かった。

エレナとミヅキはすでに自室へ戻ったようで台所には居なかった。

容器にお湯を入れて、しばらく待つ。

出来上がった麺をフォークで絡めて口へ運ぶ。何故だろうか?一人で食べるカップラーメンは先程よりも少し味が薄く感じた。

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