4.このタイミングでライバル登場とか
昼休み、メシも食わずひたすら俺にすりすりして「耀太、耀太」と弱々しくささやいていた初凪は予鈴と共に消え、キッとした顔つきになる。
ああ、初凪の手作り弁当が傷む。俺が今食べてやりたい!
放課後絶対に俺の身体が入院してる病院へ行くよな、初凪。
いいや、おまえが行かなくても俺がぬいぐるみ根性でやる。犬に乗ったり車に乗ったり何とかなるはずだから待っててくれ!
単純な俺は元気の無い初凪に一生懸命情熱を向けていた。
そうして初凪が弁当を鞄に入れていると
「宇郷さん。探したよ」
聞き覚えのある、爽やかなイケメン声がした。
そこに現れたのは学年一イケメンで成績優秀な一ツ橋。
男の俺にも何度か親切にしてくれた良い奴だが…おいおい。二人きりとは穏やかじゃねえな、予鈴がなってるから早く行こうぜ初凪。
しかし初凪は動きを止め、ぬいぐるみの俺をさっと鞄に隠しただけだ。
見えない。初凪の視点が分からないから動くわけにもいかないぞ。
動いて「呪いの人形は僕が倒してあげる」「一ツ橋君、かっこいい!付き合って!」とかなったら俺がキューピットになってしまう。
「…一ツ橋君」
「やっぱりここだった。いつもこっそり見ていたんだ」
なんだと。
「昨日三浦君のお見舞いに行ってたよね。元気が無いのはそのせいだろう」
「……放っておいて」
「そんなわけにいかないよ。ちゃんとお弁当も食べてないだろう」
「見てたの…?」
「もちろん。僕は立ちながら焼きそばパンを食べてサイダーを飲んでいたからね」
え、何こいつ怖…
しかもサイダーって開ける時音がするのに隠れる気無いだろ。気付いてもらって一緒にメシ食おうとしてたのか?
初凪、逃げようぜ。
そしてさっさと学校終わらせて俺の病院行こうぜ。
「告白は断ったはずよ。私は好きな人がいるって言ってるでしょ。い、今はまだ話せないでいるけど絶対に両想いなんだからっ!」
!!!
初凪、それは俺で確定だな?こんな状況なのに嬉しくてにやついてしまう。
まあぬいぐるみはデフォルト笑顔なんだが。
「僕はあきらめるつもりなんて無い。三浦君は良い奴だよ、でもそれとこれとは別なんだ。僕は宇郷さんがずっと好きなんだ」
「もうやめてよ」
「待ってるから」
「待っても同じよ。私は耀太が好きなの。耀太にしか全部あげないんだから」
「宇郷さん!」
初凪可愛いぞ。
しかしちょっと重いな…
俺はこの想いに応えられるだろうか…
そう考えた瞬間。
初凪が走り出したのだろう、鞄が大きく揺れて俺はああー目が回る状態になり、訳も分からぬままガサバサッと何処かに投げ出された。
なんだ?!
ま、まさか一ツ橋が初凪を押し倒したんじゃないだろうな!俺に何が出来…
「ちっ。ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって。俺がここまで言ってんのにあの女……」
状況把握する前にドスの効いたイケメン声が聞こえる。
「あんなペラッペラモブの三浦なんかの何処がいいんだか。趣味の悪ぃ女。あーいうのが好きなら保健室に同伴してもらってそのまま…とかの作戦でいくしかねえな。あ、本鈴。いいやこのままサボろ。じいさんの授業粘っこいしよ」
えええええ。
一ツ橋君?!どうしたんだ、初凪に何を暴露してんだ!
振られておかしくなったんだろうかと俺が辺りを見回すと、初凪はいないし鞄も無かった。あるのは目の前の長い草、草、草…そして俺に気付いて茶色の髪をかき上げつつ「なんだこれ」と手を伸ばしてくる、イケメンだけど雰囲気が怖い一ツ橋。
「ぬいぐるみキーホルダー…?ああ、さっきあいつが落としたのか。ガキっぽいとこがあるんだな、かーわいい」
こいつ至近距離で見ても顔はマジイケメンでなんか腹立つな…性格はちょっとアレみたいだが、天は二物を与えず。
「ん?YOUTA…へえ、おまえ、ようた。三浦か?まさか。あはははは!」
悪魔みたいに笑う一ツ橋。
さらわれる俺。
胸ポケットに入れられ教室まで連れていかれ、一ツ橋は何を考えてるのか遅れてるのを先生に謝罪し授業を受ける。
なんで野郎の胸ポケットに入れられてるんだよ俺!
ここに来てライバル登場、更に誘拐シナリオとか要らないだろ!
これ絶対に何か交換条件出して初凪が「わかりました…」とかやるやつだよ。
NTRは許さん、なんとしてでもこのイベント俺が回避してみせる!
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