神とはどうして意地悪なのだろうか

 神は少女の願いではなく少年の願いを叶えた。

 少女は罰なのか死を見送る役目を与えられた。

 少女が目を覚ました時手には赤い彼岸花が握られていた。


「よっ。黒い着物以外の着物ないの?こう…浅葱色とか?」

「…ここに入って開口一番がそれですか、黒で結構」

「冷たいなぁ、俺一応客なんだけど」

「生に執着してる人間はここでは客になれないと言っているんですけど…どうやって来るのですかね?」

「そうなんだ…」


 少女と楽しそうに話す少年の名は椎那暮人しいなくれと生に執着している人間でありながらこの『彼岸花』にたどり着ける唯一の人間。


「本当にどうして死を願わない君がこちらに来れるのか本当に分からない」

「そこは愛の力とか…」

「馬鹿なこと言わないで気色悪い」

「冗談だって!何となくここにいるかなって勘で来ただけ!」


 慌てて訂正した少年に少女はため息をついた。


 少年は昔から勘が鋭すぎた。

 そのせいで知る必要のない人間関係の裏を知ったり人の死に敏感だった。


「ほらそれに言ったろ?絶対何があっても見つけるって」

「…その口約束まだ覚えてたんだ」

「あったりまえだろ?俺をなんだと思ってるんだよ」

「君をどうこう思ってるわけじゃないよ、口約束ほど薄っぺらいものは無いから」

「ふぅん」


 少年の目は真っ直ぐ少女を見つめる。

 少女は彼のまっすぐなその目が少しだけ嫌いだった。

 心が少しだけ暖かくなる感覚が生まれてくるから。


「相変わらずお前の中で死への考え方は変わらない?」

「変わっていらこの状況は変わっている」

「⋯一生お前はこの店から解放されないけどいい?」

「うん」

「俺的にはちゃんと普通に生きて欲しい」

「断る⋯元々死のうとしてたんだから人に戻ったら死ぬよ」


 少女は人の形をしているが人ではない。

 死神とは違うなぜなら彼女は業を背負ってここにいるのだから。


 少年は少女を死なせたくない一心でここにいる。

 だが少女には伝わらない。


「じゃあもし戻ったら俺も一緒に死ぬよ」

「君は生きたいんじゃないの?」

「生きたいけどお前がいないなら意味無いよ」

「…とんだ阿呆」


 少女はプイっとそっぽを向いて少年から視線を逸らした。

 少年は少女の手を握って微笑む。


「馬鹿で良いよそれで一緒にいれるなら」

「…他の子の事好きになってあげなよ、私みたいな人じゃない奴より…ん」


 少年は少女の口を持っていたお菓子を口に入れて無理やり終わらせる。

 キスをしそうなほどの距離だったが間にお菓子が入ってそれを阻止する。


「この話これで終了で、俺帰るわ」

「ハイハイそうですか」

「またな」

「もう来ないでよ…あんた生きてるんだから、いつまでも私に執着しないで自分の幸せのために生きてよ」

「やだね」


 控えめに舌を出して椎那は店を出た。


「君は本当に馬鹿だなぁ」


 少女は深く息を吐きカウンターに突っ伏す。


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 私が屋上から飛び降りたのは雨の降る嫌な日だった。

 特に晴れた日に死にたいとかを気にするのは無かった。

 たまたま雨の日に飛び降り自殺を決行しただけなのである。


 私の事を悲しむのは椎那くらいしかいない。

 ボロボロに涙を流して泣いているのを私の死を回収しに来た死神といわれる存在の人物と傍観していたのを覚えている。


「お前の死は想定外なのだ。故に貴様はまだ死には至ってない…いわば仮死状態である」

「どうするんですか?私死にたいんですけど?」


 そう言っても死なせてはくれない。

 まぁ当然かきっと死神にも色々事情があるのだろう。


「この男はお前の死を望んではいないぞ」

「こいつだけですよ、望んでいるのは」


 呆れたようにして少女は涙で目を腫らしている少年を見る。

 彼女の両親は涙を流すどころか、ため息をついていた。


「あの子のせいでお金が…」

「そうだな…不出来な娘だと思ってはいたが、最後の最後まで迷惑なことを」


 少女はその言葉に悲しむことはなく「嗚呼またか」と呟いた。


「謝れよ!」


 椎那は彼女の父親の胸ぐらを掴んで怒鳴った。

 それを親族や彼の親が止めにはいる。

 そして彼は、落ち着いたのか謝罪して視線を少女の両親に向けた。


「…最低だよアンタら、ろくな死に方しないだろうな」


 静かにでも確かな憤りを彼女の両親に向けていた。


 少女は彼がどうしてそのような行動をしたのか分からなかった。


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 神様は椎那の願いを叶えた。

 私に生きて欲しいと。

 そして私は死ねなくなったこの想定外の死を管理する仕事に就かされて生かされている。


 試しに死んでみたがすぐに息を吹き返した。

 全く神様は意地悪だ。本人の意思とは関係なしにこういう事をするのだから。


 椎那は私が生きていると知り泣いたのは少し笑ってしまった。


 死を管理する仕事はほとんどない、あってはならない。

 この店に来ない限りは仕事はないのだ。

 良い事ではあるけど複雑な気持ちである。


「あの…」


 はいはい噂をしたらお客さんが来たよ。


「ようこそ彼岸花へ」


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 赤い彼岸花の花言葉


『あきらめ』『悲しい思い出』 

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彼岸花 赤猫 @akaneko3779

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