第2話 神あらわる

シンと静かな洞窟内。

鍾乳石から滴る水がたまに音を鳴らすくらいで、耳がジンとするくらいの静けさだった。


何も現れる気配はない。

ふと自分が座る石の台座を見て


「わたし…お皿の中の料理みたい…」

ぽそっとリーティーはつぶやいた。


すると

プークスクスクス…

小さな笑い声が聞こえた。


「!?」


リーティーは声のした方を振り返った。しかし何もいない。


でもリーティーはこういう場合の対処法を知っている。

近くにあった石を拾い、地面にマークを書くと、マークの中心を石で3回打った。

すると、ぼやーっと影が見えてきた。


それはだんだんと実体化していき、やがてはっきり見えるようになった。

コウモリの羽がついたハムスターのようなものが現れた。


「…!かわいいっ!」

リーティーの目が輝いた。


「わわ、ちょっと!見えちゃってる!?」

「ふふ、はっきりと。」

リーティーはなんだか嬉しそう。今まで人には見せなかった

柔らかな表情で微笑んでいる。


「な、なんでわかったのさ、そしてなんで人間が解き方知ってるのさー!」

コウモリハムスターはぷりぷり怒っている。


「それはね…」

といって、リーティーは背後を向き、先ほどと同じようにした。


カツカツカツ!


するとまたもやぼや〜〜〜っと何かが見えてきた。

今度は立派なツノを持つ二足歩行の小さなヤギ。


「え、おれも見つかった〜〜!!なんでだ〜!?」

「ふふ、私が住んでいたところにね、たくさんモンスターのお友達がいたから知っているの。」


馬に乗っていた時とは打って変わって、生き生きと話し始めるリーティー、まるで別人のようだ。

「そうなのか!?」

「しっぽがすごく大きいねこちゃんとか、木の皮に巻かれていて足しか見えない子もいたわよ。」

「へ〜おもしろいな!」

「他には他には?」

「そうね…」



「楽しそうだな」

突然背後から声が聞こえた。威圧感すらある声の重厚さ。

「あ…しまっ…」

目の前のかわいいモンスターたちは身動きすらできず、一点を見て震え始めた。

リーティーはゆっくり振り返った。


それは洞窟の入り口が見えないほどの巨体、ゆるいカールの毛と鱗で覆われている。

目は飛び出しそうに大きく見開き、口は裂けたように大きい。

その口は鋭い牙がたくさん見える、それがリーティーのすぐ後ろにいた。

なるほど、言い伝えに酷似した姿、これぞ山神ルードだ。


「……!!」

リーティーは目を見開き、声にならない声をあげる。

しかし…なんだか口元は緩んだように見えるのである。


「!?」


ルードはひるんだ。


“なんだ…?”


リーティーはルードに向き直り、正式に挨拶をする。

「ルード様お初にお目にかかります。ディルマ国より貴方様の生贄として参りました。どうぞお好きに扱ってください。」


「よかろう、では台座に座るが良い」

「はい」

「お前たちはさっさとどこかへ行け!」

「はははは、はいぃー!」

威圧的に一声かけると、ハムコウモリと二足ヤギは逃げるように去っていった。



ルードは、鋭い爪を持つ大きな手を振りかぶったところで…手を止めた。

「ふむ…、切り裂く前にまずは聞かせろ。お前は私がこわくないのか。なぜそう口元が緩んでいるのだ。いつもの娘たちは恐怖に顔をゆがめて逃げ惑うが。」

「はい。怖くありません。」

「…なに?」


「実は…わたしは人が怖いのです。話すのはもちろん、同じ空間にいるのさえもどうしたらいいか…ましてや顔を見るなんてもっての外で動悸がするほどです。」

「ほう?」

話に興味が湧いたのか、今にも食らいそうな体勢からルードは座り直した。


「続けろ」

「はい、こんな性分ですから、逆にこの世のものでないもの、モンスターなどにはひどく耐性があり、世間ではこわいものとされるものでも全く平気…むしろ好きなのです。」

「なんだと…」

「なので、ルード様の生贄になれて光栄です。素敵なお姿で大変嬉しく思います。」


ルードは腕組みをし、片手をアゴにやりしばらく考えた。



「やめだ。」



「え?」

リーティーは驚いた。


「生贄には恐怖を十分に与えてから切り裂くのがわたしのやりかただ。これでは面白くない!」

「いえ、あ、あの言葉が過ぎました…!怖いと言えば怖いです!もう話しませんのでどうぞ食らってください!」

「いいや、やめだやめだ!興がそれた。」

「そんな…!」

「だからお前にはこうやってやる」


ルードの毛と鱗に覆われた巨体がだんだん小さくなり、リーティーより少し大きい塊になったかと思うと、それがどんどん人型になり、人間と同じ姿になった。

細身の筋肉質の体型に、透き通るような肌、やや長めのオリーブ色の髪から金色のややつり目がのぞく。


「ひゃ…!」

途端にリーティーの顔は青ざめた。


「うむ、それでも恐怖でどうにかなるわけではないのか。つまらぬ。おまえにはこれからしばらく恐怖の日々を味あわせてやることにする。」

「私の身の回りの世話をさせてやろう、ずっとこの姿でなぁ!ついてこい。」

といい、高笑いをして歩き出した。


“幸せの絶頂から不幸のどん底になってしまったわ…”

でも国のためには逃げられない、リーティーはとぼとぼとルードについていくのだった。

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