火の玉
かおりさん
第1話火の玉
『火の玉』
小学生の時、お泊まり研修1泊旅行で山奥の宿坊に泊まった。夕食、お風呂も済ませて、部屋の外の廊下の窓から山を見ていた。
山と言っても真っ暗闇の窓の外の景色。
森と夜空の境界線もよく分からない。
やがて、窓の左側遠くに、火がゆらゆらと揺れた。
友達2人が「何見てるの?」と歩いてきた。窓の外を友達も見た。「先生を呼んでくる!」先生も一緒にその火を見た。
火がはっきりと火だと見える大きさで左右にかなり揺れていた。先生が「もう部屋に戻りなさい」と言った。
翌朝、宿坊のお坊さんと先生がその窓の前で話していた。火を見た私達が呼ばれ、お坊さんは「山に住んでいる人が明かりを持って歩いていたのだろう」と言った。朝の座禅の前の、忙しそうな時間での会話。若いお坊さんは真剣な眼差しで、窓の外と先生の顔を何度も見ながらそう話した。
それにしては同じ所に揺れていた。
宿坊からの帰り、山を少し下った所のお土産屋さんにバスは寄った。
先生がお店のお婆さんに、夕べの火の事をあれやこれやと話していた。
「あぁ、あれは店先の提灯の電気を消し忘れたんだわ」
お婆さんは目を細めてそう言い、先生は笑ってその場を離れて、お土産物を見ながら他の生徒と話していた。
私はそのお婆さんの後をついて歩いた。
「昨日やっぱり出たよ」
お婆さんが店の奥の息子さんに言った。「母さん!」息子さんが私の顔を真っ直ぐに見て、お婆さんが振り返った。
「何かいい物はあったかね?」
お婆さんは優しい笑顔でいった。
「提灯はありますか?」
そう聞くとお婆さんは
「あれは狐火だよ」と真顔で言った。
私は無言で踵を返し、店を出てバスに乗った。
バスの中で山を降りていく景色に
(あの川の流れ、この木、この枝、空の雲)
山を降りるまで心の中にポイントを幾つもいくつも目に焼き付けた。
それは、この事を忘れないようにと
幼心に刻み込んでいたのだと思う。
家に帰ると新聞の夕刊に、今朝、宿坊の近くに住む女の人が、伐採された木を背中に強打して亡くなったと読んだ。
狐火は前日に知らせに来てくれていたんだ。
そのポイントが危ないって。
その土地の地元の人達に伝承される白狐。
その地域の自然災害の前触れに
幾度となく白狐が姿を現して人人を救ったと
宿坊へ登る前に、山の麓の小さなお稲荷さまの
由来をバスで聞いた。
その土地に今もあって大切にされている、
土や木木が白狐を知っている。
土地の地元の人人も、心の中に
その時が言い伝えられ秘めている。
以来、どこのお稲荷さまでもお狐さんに
必ず挨拶をする。
こんにちは
通りますね
さようなら
ありがとう
火の玉 かおりさん @kaorisan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます