第123話「そ、そうよ! 私がユータを好きだったら、何か文句でもあるわけ!」

 ジラント・ドラゴンをその煉獄の業火でもって消し去った漆黒の不死鳥が、勝ち名乗りを上げるかのように大きく翼を広げる。

 そして役目を終えたとばかりにその姿を薄れさせ始めた。


「やったなアリエッタ!」

「ふふん、当然よ。ローゼンベルクの炎に耐えられる敵なんていないわ。たとえそれが強大なドラゴンであってもね」


 アリエッタは自慢げに言ってのけると、横髪をサラリとかき上げる。


「カラミティ・インフェルノを成功させて、ジラント・ドラゴンを討伐する。文句なしの完全勝利だ。本当にお疲れさま。アリエッタ無くしてこの勝利はなかったよ」


「そう言ってくれるのは嬉しいけれど、最後の美味しいところだけ持っていっちゃったからね。途中グダグダしちゃったのは私のせいだし。ま、勝ったからいいわよね」


 余裕の表情を隠さないアリエッタだが、防御加護は消えかかっていて、魔力がもうほとんど残っていないのが分かる。

 ほとんど全ての魔力を使い果たしてへとへとのヘロヘロのはずなのに、しかしアリエッタは疲れた素振りをこれっぽっちも見せはしない。


 決して強がりを止めない凛とした生き様こそが、アリエッタの真骨頂なのだ(俺、最高のドヤ顔)


「結界も消え始めたな。これでやっと外に出られる。空が真っ黒な天井に覆われているのは気分が滅入る」

「いい加減、そろそろ外の空気が吸いたいものね」


 周囲を覆っていた黒いドーム状の結界が、どんどんと力を失っていくのが感じられる。

 完全に力を失うのも時間の問題だろう。

 それはジラント・ドラゴンを倒した何よりの証だった。


 さて、それはそれとしてだ。


「こほん。ところで、だ。さっきの話なんだけどさ」

「な、なによ……?」


 アリエッタがビクッと肩を震わせた。


「まぁ、その、なんだ? 俺がアリエッタを好きで、アリエッタも俺を好きってことは、つまり俺とアリエッタは両想いってことでいいんだよな?」


 俺は恐るおそる確認するように問いかけた。

 するとアリエッタの顔が、見る見るうちに赤くなっていく。

 そしてクワッと目を見開いて叫んだ。


「そ、そうよ! 私がユータを好きだったら、何か文句でもあるわけ!」

「ないに決まってるだろ。でもそっか。俺とアリエッタは両想いなのか……むふふ」


 やばい。

 その事実に、頬が緩んで気持ち悪い笑いが出てしまう。


「ユータ、ちょっと気持ち悪い顔してるわよ」

「嬉しすぎて、ついな。むふふ……」

「もぅユータってば。こんな時くらいカッコいい顔をしなさいよね。まぁいいけど」


 なんてこそばゆいやりとりをしていると、ユリーナ、リューネ、ルナ、キララ、クララが全員集まってきた。


「さすがですわねアリエッタ・ローゼンベルク。あなたならできると思っておりましたわ。それでこそわたくしのライバルに相応ふさわしいというものです」


「ユリーナ……ありがと。背中を押してくれて」

「はて、なんのことでしょうか? まったく心当たりがありませんわね」


 右手の人差し指を口元に添えてユリーナが優雅に小首をかしげた。


「お礼を言ってるんだから素直に受け取っておけばいいのに。ユリーナってほんと面倒くさい性格してるよね」


「あなたほどではありませんわアリエッタ・ローゼンベルク」

「なんですって?」


「自分のことは意外と分からないものですわよね」

「その言葉、そっくりそのまま返すわよ」


「はいはい、仲が良いのは分かったから」

 当たり前のようにいつものやり取りを始めた2人を、俺は仲裁に入る。


「別に仲良くなんてないから」「別に仲良くなんてありませんわ」


 ……ハモってんじゃん。

 めっちゃ仲良いよな????

 いい加減に認めろよ?


 そして2人の恒例のやり取りが一段落したのを、これまた慣れた様子で見計らってから、他の仲間たちも声をかけてくる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る