第103話 魔竜顕現

「そうさ、私は目を覚まさせてやらねばならないのだ! そのためならば! 私はこの身を世界に捧げてみせようじゃないか!」


「今どき、一人で姫騎士至上主義を叫んだところで世界は変わらねぇよ」

「変わるさ。行動を起こせば世界は変わる。私が変える!」


 目を見開いて己の歪んだ理想を高々と宣言した瞬間、ジラントの身体がドクンと波打った。

 いつの間にかその目は、まるで魔獣のように紅に染まっている。


「目が、紅い……?」


「そうさ、私は変える! たとえこの身が滅びようとも! この間違った世界を変えるのだ!」

「おまえ、一体なにを――」


「魔竜顕現」


 その言葉とともにジラントの身体から、膨大な闇の魔力が噴水のように噴き出した。

 勢いよく流れ落ちる滝が天地逆転したかのように、天に向かって吹きあがる闇色の魔力は、空高くまで上ると今度は一転、ドーム状の覆いとなって周囲を覆っていく。


「これは……結界か?」


 姫騎士デュエルで観客席とデュエル・スタジアムの間に展開する防御結界に似たような、中と外を遮断する強い断絶の魔力を、神騎士LV99の俺の感覚が鋭敏に感じ取る。


「わたしは……かえる……せかいを……かえる……いのちにかえても……せかいを……かえ――グルギャァァァァァッッ!」


 そして耳をつんざく咆哮が聞こえた時、天に向かって溢れ出る闇の魔力の根元に、


「な、ドラゴンだと!?」

 一体のドラゴンがいた。


「グルルルルルルルルルル……」


 俺の視線の先。

 地獄の底から這い出てくるような低い唸り声を上げているのは、漆黒の鱗に身を包んだ、2階建ての家くらいもある巨大なドラゴンだ。

 しかしそこにジラントの姿はない。


 あるべきものが存在せず、その代わりにありえない存在がいる。

 その答えは――。


「まさかあいつ、自らを生贄にして魔竜を召喚したってのかよ!?」


 召喚魔法は通常、自らの魔力を消費して疑似的な魔獣を作り出す。

 そしてその魔力量が大きければ大きいほど、魔獣の強さも上がる。


 しかし5体の大型魔獣を召喚したジラントには、魔力はそう多く残っていなかった。

 だから俺は既にたいした魔獣召喚は行えないと踏んでいた。


 しかしジラントは自らを生贄に――つまり姫騎士という魔力の塊を代償にして、最強の魔獣と称されるドラゴンを召喚したのだ!


「そこまで、するのかよ……そこまでして、お前は世界を変えたかったのかよ……そんなにこの世界が憎かったのかよ……」


 わずかに同情はするものの。


「だけどやっぱり俺は、ジラントの言い分を聞き入れることはできそうにないよ。前の世界と違って、この世界は俺に優しいんだ。何よりこの世界には、推しの子のアリエッタがいるからさ」


 俺の言葉が聞こえたからかどうかは知らないが、漆黒の竜が真紅の瞳を見開く。

 闇の魔力がどんどんと高まっていく。


 結界で閉じ込められているため、逃げることはできない。

 何の準備もせずにいきなりのドラゴン戦だが、やるしかない。


 と、そこへ俺の頼れる仲間たちが、魔獣を全て撃破し終えて集まってきた。


―――――――


カクヨムコン9用の新作がスタートしました~!


強豪チームをクビにされた主人公が『最下位確定チーム』を立て直す奮闘裏方ものです。

応援のほど、よろしくお願い致します😌🌷🌻



姫騎士デュエル・アナリストの俺、男だからとランク2位のチームを追放され、訳あり美少女ばかりの新チームに拾われる。「開幕戦は3日後だ。よろしく頼むよ」「……OK」

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