第102話 ユウタvsジラント

「魔獣に頼らずとも、私がお前らを倒し、第3王女を倒せばいいだけのこと! まずはお前だ、ユウタ・カガヤ! 闇の魔手よ、敵を封ぜよ! ザ・ハンド・オブ・ナイトメア」


 ジラントの周囲に真っ黒な腕が20本、出現する。

 相手を拘束するAランクの闇魔法だ。


 俺は向かってくる20本ほどの闇の手に、神龍剣レクイエムを次々と当てて全てを打ち消した。


「さっきからいとも簡単に、私の魔法を無効化してくれるな。どうやらその剣には、魔法を無効化する対抗魔法のようなものがエンチャントされているようだ」


「まあな」


「しかもAランク魔法すら無効化するとは、また珍しいものを持っている。なるほど、お前の自信の源泉はその剣にあると見た」


「それもあるかな」


 神龍剣レクイエムが、姫騎士や魔獣に対して圧倒的に有利を取る武器なのは間違いない。


 が、しかし。

 この世界の俺は神騎士LV99。

 舐めて貰っちゃ困るんだぜ?


「だがわざわざ全てに触ったところを見ると、魔法無効化の発動条件はその剣が触れること。つまり効果範囲は極めて狭く、同時攻撃に弱い」


「いちいち説明されなくても分かってるっての」


「ならばこれでどうだ? 闇の魔手よ、敵を封ぜよ! ザ・ハンド・オブ・ナイトメア!」


 ジラントは魔法を発動すると同時に、俺に切りかかってきた。

 しかしさっきとは違って、すぐには魔法が発動しない。


 俺はジラントの切り込みを神龍剣レクイエムで受け止めるが、ジラントはそのままつばぜり合いの形に持ち込んできた。

 そしてこの段になって初めてザ・ハンド・オブ・ナイトメアの魔法が発動し、またもや真っ黒な腕が20本、出現する。


 そして俺の正面ではなく、弧を描いて後ろ側から回り込むような軌道で、死角から向かって来た。


「魔法のディレイ発動か。くそ、なるほどだ。言うだけあって、やるな!」


「くくっ、こうしてつばぜり合いしている間は、剣を動かせない。つまり今は魔法を打ち消すことができないはず!」


 極めて単純な、だけど効果的な神龍剣レクイエムの攻略方法だ。

 さすがは百戦錬磨のブレイビア騎士団・元エースだ。

 いい勉強になったよ。


 だがそれがどうした?

 神騎士LV99を舐めるなよ!


「神龍の聖光よ、敵を穿うがて! ペンドラゴン・ファング!」


 100を超える聖光弾が、俺の死角から迫りくるザ・ハンド・オブ・ナイトメアの魔手を全て粉砕した。


「な――っ!? バカな! 死角の魔法を全てピンポイントで撃ち落としただと!? しかも低ランクのアロー系がなんて威力だ!」


「何を驚いてるんだよ。魔力感知で捉えていたのを、撃ち落としただけだ。たいしたことじゃないさ」


 今じゃアリエッタだってかなりの精度でやってくるぜ?


「く……!」

 おおっと、すごく驚いたような顔をしているな。


 なんかちょっと新鮮かも。

 最近は俺の戦い方もすっかりネタバレしちゃって、神龍剣レクイエムの魔法無効化も、高威力・高精度の低ランク魔法にも、すっかり驚かれなくなっちゃったもんな。


「言っとくが、俺の力はまだまだこんなもんじゃないぜ?」


 俺はいつもの模擬戦と同じように、神龍剣レクイエムの魔法無効化を軸に、ジラントを追い詰めていく。


「く、ぐっ、この――っ! 喰らいつけ、ダーク・ハウンド!」

 闇色の狼がするどい牙を突き立ててんと、一直線に俺に向かってくるが、


「無駄だっての」

 俺は神龍剣レクイエムで難なく消し去る。


「くぅ……!」


「おいおい、なんだよ。ブレイビア騎士団の元エースって割りに、全然たいしたことないな」


 複数の魔獣を召喚する力は確かにかなり厄介だし、俺一人じゃ対処しきれなかった可能性がある。


 だけど魔獣をみんなが抑えてくれている状況で、ジラント個人の戦闘力だけを見れば、ここ最近メキメキと力を付けているアリエッタの方が、ぶっちゃけ強いんじゃないか?


 レクイエムの効果範囲の狭さにすぐに気付いて、対処法まで考えてみせたのはさすがだけどさ。


「少し上手くいったからといって、調子に乗るなよ子供が……!」


「そうは言っても、魔力も防御加護も切れかけているだろ。そろそろ魔獣も俺の仲間が全て処理してくれる。増援だって来るはずだ。もうお前に勝ち目はない」


「……それほどの力を持ちながら、どうして私の言葉が理解できないのだ。お前ほどの力があれば、姫騎士をまとめて世界を変えられるだろうに」


「またそれかよ。話はもう終わりだって言っただろ。俺は毎日、推し活が忙しいんだ。世界なんて変えている暇はないんだよ」


 いい加減に分かれよな。


「我々姫騎士は選ばれし存在だと知らしめ、のうのうと生きる愚民どもの目を覚まさせてやらねばならんのだ」

「だから議論する気はねぇよ――なんだ?」


 そこで俺はハッと気付いた。

 こいつ、なにかをやろうとしているのか?

 だがもうジラントに、そんな力は残っていないはずだ。

 一体、何を――。


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