第92話 みたらし団子で、間接キッス(?)

「押してダメなら自分も乗っかればいい。やるじゃんアリエッタ。アタシ、アリエッタのそういうところ嫌いじゃないよ?」


 むにゅむにゅ、むにゅり。


「私もルナの物怖ものおじしない性格は嫌いじゃないわ」


 むにゅむにゅ、むにゅり。


「「ふふふふ」」

 むにゅむにゅ、むにゅり。×2


 俺を挟んでルナとアリエッタがむにゅむにゅさせながら、にっこりと笑い合った。


「微妙についていけてないんだけど、やっぱり2人の仲は良さそう……だよな?」


「あははは……まぁ、仲はいいんじゃないでしょうか? 根っこにある積極的な性格はそっくりですし、好みのタイプも似てるみたいですし?」


 俺のつぶやきに、リューネがまたもや苦笑を返した。


 ――などという大変、心温まる(?)やり取りを終え。

 俺は左腕をアリエッタに、右腕をルナに抱き抱えられながら、お祭りを歩き始めた。


 ちなみにリューネは我関せずといった様子で、俺たち3人の後ろで温かく見守ってくれながら、両手が塞がった俺の代わりに屋台での買い物を代行してくれる。


「はい、ユウタくん。あーん♪」

 ルナが俺の口元へと差し出した3個差しの串団子の1つ目を、俺はパクりと咥えた。

 もぐもぐ……ごくん。


「甘じょっぱくて美味しいな」

「やっばりお祭りといえば、みたらし団子だよねっ♪ 癖になる味っていうのかな?」


 嬉しそうに言うと、ルナは真ん中の串団子を躊躇ちゅうちょなく口にする。


「お、おい。今の」

「え? なに?」

 ルナがキョトンとした顔を見せた。


「なにってその、だからだな」


 俺がなんとも言いあぐねていると、ルナも「そのこと」に思い至ったようで、キョトンとした顔から一転、にんまりと小悪魔のような笑みを浮かべた。


「だから~? なにかな~? ユウタくん、教えて欲しいな~♪」

 そして分かっているはずなのに、分かっていない振りをしてからかうように聞いてくる。


「だから、か、間接キスだろ? 言わせんなよ恥ずかしい」


「あははー♪ これくらいで恥ずかしがるなんて、ユウタくんってばやっぱり可愛いよねっ♪ じゃあはい、最後の1個もあげる。あーん♪」


 ルナはひとしきり笑うと、串団子の最後の3つ目を俺の口元に差し出した。


「いや、その……」

「あーん♪」

 甘えたような猫なで声のルナ。


「あ、あーん……」

 今度は俺がルナと間接キスをしてしまうことに躊躇ちゅうちょしつつも、俺が口を開きかけると、


 ヒョイ。

 パクッ。


 ルナとは逆サイドから腕を伸ばしたアリエッタが、ルナの手から串団子を奪って自分の口に入れた。


 もぐもぐ……ごくん。


「ふぅん、なかなかいけるじゃないのこれ。私も好きよ」

「なんでアリエッタが食べてるのよ。しかも感想がめちゃくちゃ上から目線だし」


「間接キスなんて不埒な真似を公衆の面前でされるのは、お世話係として見過ごせないから、代わりに私が食べてあげたの。感謝してよね」


 いやさっき、俺たちたい焼きで間接キスしたよな?

 のどまで出かかったセリフを俺は、ぐっとこらえた。


「はぁ? なにそれ? そういうアリエッタこそ、それ食べたらユウタくんと間接キスしちゃってるじゃん」


「私はお世話係だから、これくらいいいの」


 このセリフに、経験者の余裕を感じてしまったのは、俺がまさに当事者だったからだろうか。


「前から思ってたんだけど、何かあったらお世話係って言うの、ズルくない?」

「ず、ズルくないもん」

「アリエッタの声、裏返ってるよ?」

「……」

 どうも自覚があったのか、アリエッタが顔を赤くした。


 その後はあまりハレンチな間接キッスをすることもなく、4人で平和にお祭りを見て回り始めたんだけど。


 ホッと一安心したのも束の間、更なる出会いが俺を待ち受けていることを、俺はすぐに知ることになる。

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