第91話 汝、右腕をむにゅりされたら、左腕もむにゅりされなさい。
「それはその……だ、だって見るからにユータが歩きにくそうでしょ。私じゃなくて、これはユータのためを思って言ってあげてるの。だって私はユータのお世話係だから。歩くお世話もちゃんとするわ」
なるほど、理屈は通っている。
アリエッタは俺のために言ってくれたのだ。
でもお世話係っていうのが、ちょっと取って付けたように感じるかも?
「小さな子供じゃないんだから、お祭りを歩くのになんのお世話がいるのよ?」
「お祭りとか関係ないから。お世話係は24時間体制だから」
たしかに夜もいつも一緒に寝ているし、24時間体制ではあるよな。
アリエッタは気持ちよさそうに寝ているけど、それは言うまい。
「なにそれ、意味わかんないし。だいたい今日は休日でしょ。休みの日までお世話しなくていいじゃん」
「ね、年中無休なの!」
「ねー、ユウタくーん? アタシとくっついてたら歩きにくいー? そんなことないよねー?」
と、ここでルナが俺に話の矛先を向けた。
むにゅむにゅむにゅり。
甘えるような猫なで声で可愛くつぶやいたルナは、マシュマロ双子山をどうだと言わんばかりにさらにむぎゅりと押し付け、俺の腕を具材に濃密なマシュマロンサンドイッチを作り出す。
むにゅむにゅむにゅむにゅ。
むにゅむにゅむにゅむにゅり。
――――っ!!
魅惑のマシュマロアタックが、俺の理性をパイレーツのごとく侵略する。
ヤバい、女の子の身体マジヤバい!
しかも腕を抱きしめながら、指を恋人繋ぎしてきた。
細くて柔らかいルナの指が、俺の指と優しく絡まる。
「歩きにくくなんてない――ような気がするようなしないような」
ない、と言いかけたものの、アリエッタにギロリと睨まれてしまい、俺は速攻でヒヨって語尾を曖昧に濁した。
しかし完全にないとも言いきることはできない。
そんな男の子の悲しいサガをですね、なんとか分かって欲しいんです!
俺も男の子なんだよ!
おっぱいとかすごく興味のある年頃なんだよ!
ダイレクトに誘惑されて、理性も身体も反応しちゃうんだよ!
恋人繋ぎに特別な物を感じちゃうんだよ!
もしかしてルナって俺のこと本気で好きなんじゃね、とか思っちゃうんだよ!
「どっちなのよ? ハッキリしなさいよね」
「歩きにくくなんかないよねー?」
「まあその、なんとも言えないというか、軽々に判断するのが難しい難問かなって……」
「なんとも言えないってことは、問題ないってことだよね?」
「むぅ~~~~~~~~っっ!! じゃ、じゃあ! 私もするから!」
アリエッタが顔を真っ赤にして宣言した、
「するって何を──」
俺が聞き返すよりも早く、アリエッタはルナと反対側の俺の左腕を抱きかかえるように、俺の腕を抱きながら密着してくる。
今度は俺の左腕に、アリエッタの柔らかい乙女の部分が押し当てられた。
むにゅむにゅ。
むにゅり。
むにゅむにゅり。
「お、おい、アリエッタ……?」
「ユータはこうしても歩きにくくないんでしょ。じゃあ私がやってなにか問題でもある!?」
なんかキレ気味に言われてしまったぞ?
いやこれはキレ気味ってよりかは、やけくそか。
顔も真っ赤だし、恥ずかしいのは間違いない。
「問題はないんだけど、そうじゃなくて──」
人前でいちゃついたら、また人にからかわれるぞ?
アリエッタはそういうの苦手だよな?
そこだけ聞いておこうと思ったんだけど、アリエッタは俺の話には聞く耳を持たず持論をガンガンとまくし立ててくる。
「だったらなに? 私に腕を抱かれ──こほん。私に腕を取られているとなにか問題でもあるわけ?」
「そんなわけないだろ」
俺はそこだけは強く断言した。
推しの子に腕をギューされるとか、ハッピーホライゾンだから!
まぁ?
アリエッタが自ら進んでギューしてくれているんだから、俺に断る理由はないよねっ!
汝、右腕をむにゅりされたら、左腕もむにゅりされなさい。
俺はイエス様の教え(?)に従い、この状況を受け入れることにした。
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