第34話 推しの特別?
「ふんだ。だいたいね、その剣がズルいのよ。何もしなくても一方的に私の魔法を全部かき消すんだから、こんなの勝負になるわけないじゃない。その剣なしでやってよね! そしたらいい勝負できるかもだし」
「合法的に持ってるんだからズルいとか言うなよな。でも悪い。実は俺、神龍剣レクイエムがないと戦えなくてさ」
これは今日の模擬戦でいろいろ試していて気付いた事なんだけど、神龍剣レクイエムがないと、ちょっとまずい感じなんだよな。
「あれ? ユータってもしかして、武器を媒介にして魔法が使える系? 武器がないと魔法が使えなかったり? あ、いいこと聞いちゃったかも」
「……まぁ、そんなところかな」
実は微妙に違うんだけど、神龍剣レクイエムがないとまともには戦えないのは間違いなかったので、とりあえずはそう言っておいた。
「つまり何らかの方法で、その剣を使えなくすればいいのよね。でもその剣がある以上、どうしたってかなわない。なら不意打ちで奪っちゃう? ううん、現状の実力差だと、不意打ちなんてとても成功しないわ。だったら魔道具か何かで、剣に付与された『否定』の概念魔法の効果を抑えつけてしまえば……でも相当強力な魔道具じゃないと『否定』の概念魔法で、全部ねじ伏せられちゃうし……」
アリエッタがぶつぶつと独り言を言いながら、俺を攻略するための作戦を立て始めた。
この向上心は見習いたいな。
転移前にリアルな人生を早々に諦め、ソシャゲの世界に逃げていた俺とは正反対だよ。
本当にアリエッタは完璧で究極に素敵な女の子だった。
アリエッタを推して良かったと、俺は改めて幸せな気持ちになる。
ハピハピな気持ちで1人作戦会議をしているアリエッタを眺めていると、
「ねぇねぇユウタくん。今度はアタシと模擬戦しようよ♪」
さっきまで俺とアリエッタの模擬戦をギャラリーしていたルナが、俺の腕に自分の腕を絡めながらくっついてきた。
ルナの豊かな胸が、俺の腕にギュムッと柔らかく押し付けられる。
柔らかい感触とクチナシのようなフローラルで甘くいい匂いが漂ってくる。
「お、おい、ルナ。当たってるって」
「んー? なにがー?」
「だから、その……」
「えー、何が当たってるのか言ってくんないと、アタシ分かんないしー。ねー何? 何が当たってるの~?」
なんて言いながら、ルナはさらにむにゅむにゅと胸を押し付けてくる。
くっ、こいつ俺をからかっていやがるな!?
陰キャ童貞の心を
「ちょっとルナ。ユータに馴れ馴れしいんじゃない? 離れなさいよ」
すると1人作戦会議を止めて顔を上げたアリエッタが、ルナとくっついている俺にバチクソ不機嫌そうな視線を向けてきた。
「別にこれくらいのスキンシップは普通だし?」
「普通なわけないでしょ。とっとと離れなさいよ。でないとユータに、に、妊娠させられるわよ」
「妊娠? 急になに言ってるの? まぁ別にユウタくんになら、アタシ妊娠させられてもいいけどね♪」
「はぁ!? いいわけないでしょ!」
うがーっ! と吠えたてるアリエッタを、しかしルナはどこ吹く風で受け流す。
「だってすごく強いのに、反応は初心で可愛いし。アリエッタに何でも言うことを聞かせられる権利があったのに、お世話係で済ませちゃう優しさも持ってるし。アタシはユウタくんみたいな男の子、結構好きだなぁ」
「はぁ!? ユータなんかを好きとか、バカじゃないの!?」
「酷い言われようだ……」
だが推しのアリエッタにこうも正面切ってぶった切られると、それはそれでちょっと気持ちよくなってくる気がしなくもない俺である。
例えマイナス方面であったとしても、少なくともアリエッタが俺を『とても強く意識』してくれていることの現れであるわけで。
それはつまり、推しが俺を強く認知しているということに他ならない。
推しの特別。
罵倒されているにも関わらず、その事実が俺をとても気持ちよくさせてくれていた。
くっ、これも新たな推し活なのか?
――って、いやいや落ち着け、俺。
どう考えても、これは性癖がヤバい方向に振り切れてるだろ。
この未知なる扉を開けてしまうと、戻って来れない可能性がある。
今ならまだ引き返せる。
胸の中に起こりつつあった未知なる感情を、俺は見て見ないふりをした。
そんな風に俺が一人葛藤している間も、アリエッタとルナの会話は続いていく。
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