第35話 ルナvsアリエッタ
「だいたいになんでアリエッタがそんなこと気にするのよ?」
「え? なんでって……」
「別にユウタくんがアタシと仲良くしたって、アリエッタは困んないじゃん?」
「それはその、だって、あの、えっと……お、お世話係だもん! ユータをしっかりと管理・監督・指導・教育するのがお世話係の仕事なんだから! 不埒なことはさせられないわ!」
アリエッタはそう言うと、強引に俺とルナを引き離した。
「ふぅん?」
「なによ」
「別にぃ?」
「言いたいことがあるなら言いなさいよね」
「じゃあねユウタくん、また今度アタシと遊ぼうね♪ 今度は2人だけで。アタシのお部屋でいいことし・ちゃ・おっ♪」
「い、いいことって? なんだよ?」
「いいことは、い・い・こ・と、でしょ? ふふっ、分かってるくせに♪ 目いっぱい楽しませてあ・げ・る♪」
ルナが俺の耳元に口を寄せると、囁くように言ってから、フッと息を吹きかけた。
ふぁぁぁぁん!?
ゾクゾクゾクっと電流のような快感が俺の背筋を駆け抜ける。
「ルナ! 男を部屋に呼ぶとか、何をハレンチなことを言ってるのよ!」
「だって言いたいことがあるなら言えって言ったのは、アリエッタじゃん」
「ユータじゃなくて、私にって意味に決まってるでしょ!」
「あらごめーん。アタシってば勘違いしちゃったみたーい」
「絶対嘘だし! あと距離が近い! くっつきすぎ!」
「別に距離は関係なくない? ユウタくんはアリエッタのものじゃないんだし」
「私はユータのお世話係だもん!」
「まぁいいけどね。じゃあね、ユウタくん。アリエッタがヤキモチ焼いてるから、今日はこれくらいで」
「ヤキモチとか焼いてないから」
「はいはい。じゃあね、チャオ~♪」
最後にひときわチャーミングな笑顔を俺に向けてから、ルナは友達のところに歩いて行った。
「まったく、場をかき乱すだけかき乱していきやがって……」
俺はやれやれって気持ち半分、いまだ残るドキドキが半分ってな感じの心具合で、去り行くルナを何とはなしに見送っていたんだけど――。
(なんだ? 見られている?)
俺たちのやり取りを遠巻きに見ている中に、うっすらと敵意のようなものが見え隠れしているのを、俺は感じ取っていた。
(どこからだ? ああくそ、全部で60人以上いるし、一年生Aランクのアリエッタとルナ、編入生の俺の組み合わせが目立つのもあって、結構な人数が見てるからな。さすがに分からないか)
ま、男で姫騎士な俺を面白く思ってない生徒もいるだろうし、いきなりAランクの2人と仲良くしているのが気に喰わない生徒だっているだろう。
気にしてもしょうがないか。
俺は敵意を向ける相手が1年の中にいるということだけ胸にとどめると、引き続きアリエッタとの模擬戦闘訓練を続けた。
次第に俺も戦闘に慣れてきたのもあって、途中からはアリエッタの成長を促すように、レッスンするように戦っていく。
そしてアリエッタは負けても負けても、
「リューネ、魔力回復お願い!」
「まかせて~。清き水乙女に
リューネに魔力を回復してもらいながら、何度も俺に挑んできた。
ちなみに当たり前のように頼んでいるが、魔力を回復させる『水乙女の聖杯――アクエリアス・ホーリーグレイル』は、リューネの家系に伝わるSSランクの特殊な水魔法だ。
通常、エリクサー(万能薬と言われる超高い薬)などのアイテムや、特殊な魔力充填効果を持った激レア魔道具以外では、他人の魔力を回復させることはできない。
当然リューネ以外の学園生で、魔力回復魔術を使える者は存在しない。
それどころか王国騎士団にもほとんどいない希少能力を、リューネという姫騎士はは今の時点で既にマスターしているのだ。
少なくともソシャゲではそうなっていた。
(ただしパートナーヒロインにしないと『水乙女の聖杯――アクエリアス・ホーリーグレイル』は習得しない)
そしてそのオンリーワンの特殊性ゆえに、リューネ自身の戦闘力は低くても、非常に使い勝手のいいパートナーヒロインとして人気が高かった。
(加えて作中一の巨乳なのももちろん人気の要因である。男はおっぱいに弱いので)
というかパーティを組んだ姫騎士の魔力を回復できるのが、かなり壊れ性能なんだよな。
本来は1姫騎士につき1戦闘に1回しか使えないSSランクの魔法が、リューネがいると複数回使えてしまうため、特にボス戦ではリューネがいるだけで別ゲーになってしまうのだ。
ボスに相性のいい属性のSSランク魔法を連発させることで、効率的に倒すことができてしまう。
そりゃあここでもブレイビア学園をスキップして、即戦力としてすぐにでも王国騎士団に来て欲しいって要請もくるよな。
ともあれそんなハイスぺ回復役のリューネの支援もあり。
モチベーションの塊のようなアリエッタは、俺との戦いによってみるみる強くなっていった。
もちろんまだまだ俺にはかなわないがな。
「また負けたぁ……悔しい」
「だけど、ちょっとずついい勝負になってるだろ? 目に見えて強くなってるぞ?」
「そんなこと言って、さっきから適度に手を抜いてるでしょ。分かってるんだからね?」
「だってガチで本気でやったら、俺が余裕で勝っちゃうじゃん。決闘の時の再現じゃん。ある程度、縛りプレイでやらないと勝負にならないだろ?」
「うがーっ!! 言ったわね!? 次っ! 早く次をやるわよ! 次こそは私が勝つんだから!」
「はいはい」
「はいは1回!」
「はーい」
その後も俺は、時間の許す限りアリエッタと模擬戦闘を続けた。
リューネもアリエッタを根気強く回復してくれる。
そしてアリエッタには申し訳なかったんだけど、俺は最後まで勝ち続けた。
1回くらい負けてあげようかなとも思ったものの、バレたらアリエッタがガチでキレること間違いなしだったので、止めておいた。
縛りプレイで戦うのと、露骨な手抜き接待プレイをするのは似ているようで全く違う。
後者は、何でも真正面から真剣に取り組むアリエッタが、一番嫌がることだから。
アリエッタ推しの俺は、そのことを他の誰よりもよく理解していた。
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