第33話 授業と模擬戦

 とまぁ最初にそういうワチヤワチャイベントがあったものの。

 ぶっちゃけ授業自体は余裕だった。


 魔術について体系的に学ぶ『魔法科学』の授業は、理論は何言っているかさっぱりなのに直感的に理解できてしまうし。


 魔王やら魔物と戦う姫騎士の歴史を学ぶ『魔法史』も、ソシャゲの世界観を知っていて、様々なイベントをこなしてきた俺からしたら、初歩的なことばかり。


(この感じだと、座学の方は余裕っぽいな)


 俺は話を聞き流しながら、横で一生懸命に講義を聞いているアリエッタを幸せな気分で眺めていた。

 推しと隣り合わせで受ける授業――プライスレス。


 午前の3コマの授業を終えると、昼食を挟んで、午後からは姫騎士としての実技や実習、模擬戦闘訓練が行われる。

 クラスに関係なく1組と2組との合同で、自分のレベルや特性に合わせた訓練を行えるのだそうだ。


 もちろん俺はそこでも無双した。

 いやここからが本番というべきか。


武具召喚コネクト! ティンカーベル!」

 その言葉とともに、アリエッタの身体に猛々しい赤のラインが入った白銀の鎧が装着され、手には1本のレイピアが現れた。


武具召喚コネクト、神竜剣レクイエム。よし、いつでもかかってきてくれていいぞ」


 同様に俺の身体に黄金の鎧が装着され、手には闇を携えたような漆黒の刃を持った大振りな剣――バスターソードが顕現する。


「相変わらずの余裕ね。でも見てなさい。昨日の夜、ちゃんと対策を考えてきたから。すぐにそんな余裕をなくしてあげるわ」

「楽しみにしてるな」


「う、上から~~! 1回勝ったからって調子に乗って! ふん!」

「いや、本当に楽しみにしてるんだよ」


 推しのアリエッタと1対1で模擬戦をするのに、楽しくならないわけがないだろ?

 なにせアリエッタが、俺のことだけを考えて、俺だけを見てくれているんだから。


 軽く話し終えると、昨日のリベンジとばかりに、アリエッタが血気盛んに1対1の模擬訓練を挑んできたのだが、俺はアリエッタの対策にことごとく対応し、退けていく。


「後ろを取ったわ! 喰らいなさい、ライオネル・ストライク!」

「甘い!」


 俺は背中を向けたままで、肩越しに神龍剣レクイエムを背中に背負うようにして、炎の獅子をまとって突進してくるアリエッタの攻撃を受け止めた。


 神龍剣レクイエムに込められた『否定』の概念魔法が、ライオネル・ストライクの効果を触れた瞬間に打ち消す。


(よしっ! ノールックでのバックガードがバッチリ決まった! これアニメとかで達人キャラがやるけど、カッコよかったから一度やってみたかったんだよな!)


 背後からの攻撃を、視線を向けずに魔力の気配だけを頼りに、剣だけ後ろに回して防御する。

 とても厨二心がくすぐられる防御方法だと思うんだ。


 多分、男の子が異世界転移したら、みんな1度は練習すると思う。

 嘘だと思うなら試しに1度、バトル系の異世界に転移してみて欲しい。

 絶対やるから。


 俺は満足感を覚えながら、くるりと振り向くと、そのままアリエッタに接近戦を挑んだ。


 すぐに神龍剣レクイエムがアリエッタを圧倒する。

 アリエッタのまとう防御加護をゴリゴリ削り、防御加護が喪失してしまう、いわゆるガードアウト寸前まで追い込む。


(昨日も思ったけど、身体がすごく軽い。意識した通りに身体が動いてくれる。元々は運動音痴だったのに、俺の身体の感覚は確かにあるのに、俺の身体じゃないみたいな不思議な感じだ)


「はい、そこまで。この勝負はユータさんの勝利です」


 審判役のリューネに止められたと同時に、アリエッタが息も絶え絶えにへたり込んだ。


「ううぅ~~! 後ろを取って、今度こそ勝ったと思ったのに!」

 アリエッタが悔しさをあらわにしながら、キッと俺を睨みつけてくる。


 しかしそこに悪意や敵意はない。

 なんていうか慈愛に満ちたにらみというか?


 そこに俺への小さな甘えや心を許した雰囲気を感じとって、俺はなんとも幸せな気分になっていた。


 おっと、勘違いしないでくれよな。

 別に美少女をいたぶって涙目にさせて可愛く睨まれるのが好き、ってわけじゃないからな?


 俺にそんな斜め上の性的嗜好はない。

 なによりアリエッタは俺の推しの子。

 イジメるなんてもっての外だ。


 もしアリエッタをイジメるやつがいたら、神騎士Lv99の俺が出ていって片っ端からやっつけてやるから、覚悟しとけよ?


「いや、今のは敢えて背後を取らせて攻撃させた上で防御したんだ」

「えっ?」


「目で追えていない攻撃を、魔力波動の感覚を頼りに防御する練習がしたくてさ」

「なにゃっ!?」


「アリエッタが神龍剣レクイエムの防御範囲を探ろうとして、あれこれやってきているのは分かってたからな。ちょうどいいから利用させてもらった」


「くっ、この! 私を練習台にしてたっていうの!?」


「いや、模擬戦闘訓練なんだから、お互いに練習台にくらいするだろ? そのための模擬戦だよな?」


「私が必死になんとか一発当てようと苦心してるのに! 全部ユータの思い通りに動かされてたなんて! ユータ、内心で私のことバカにしてるんでしょ!」


「バカになんてしてないから。それにアリエッタもどんどん強くなってるだろ? 昨日とは見違えるほどだぞ?」


 実際、俺との模擬戦を通してアリエッタの動きからは無駄がどんどんとなくなり、多彩な戦法を自分のものにして、メキメキと強くなっているのが分かる。


「くぅぅ! すっごく上から目線だし!」


「おいおい、俺はアリエッタを心の底からリスペクトしてるっての。超下から目先だっての」


「だからユータが私の何を知ってるっていうのよ! たいして深い仲でもないくせに」


「昨日は一緒に寝ただろ」

「~~~~っ! そう言うこと言うの禁止だから! このハレンチユータ!」


「はいはい」

「はいは1回!」

「はーい」


 俺はアリエッタとのリアルな語らいに、頬が緩むのを抑えるの必死だった。

 嬉しさの余り、地面にルパンダイブしてそのままゴロゴロ転がってしまいそうだ。


 ふぅ、やれやれ。

 推しとリアルに会話する幸せ、マジヤバイな。

 これだけでご飯3倍はいける――いや、もはやご飯すらいらない。

 これだけでお腹いっぱいになれちゃうよ。


 推しと触れ合うって、本っっっ当に最高だなぁ!

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