第13話「ここは俺に任せろ!」

「ちょ、ちょっとアンタ! これは私の問題であって、アンタに関係はないわ」


 アリエッタがその誇り高き性格ゆえに、余計なことはするなと言ってくるが、


「俺は決闘の当事者だろ。当然、関係はあるさ」


 俺は有無を言わせないように強めに言ってから――だけど安心させるように優しく微笑んだ。


 そうさ!

 推しの子が目の前で窮地に陥っているのに、黙って見ているだけでいられるかよ!

 大丈夫だ、ここは俺に任せろ!


 普段の俺なら、他人の話に口出しなんてしない。


 偉い人には絶対に逆らわない。

 怒られたら自分に非がなくても、ごめんなさいと謝る。

 へらへら愛想笑いしてやり過ごす。


 それがカースト底辺でボッチ陰キャをしていた俺の生き方だった。


 だがしかし!

 推しのピンチという場面が、俺に尋常ならざるモチベーションを与えてくれていた。


「あなたは?」

「ユウタ・カガヤと申します」


「ユウタ・カガヤ……不思議な響きのお名前ですね?」

「ええ、まぁ」

 としか言えないけど、言いたい気持ちは分かる。


 なにせアリエッタ・ローゼンベルク、リューネ・フリージアといった名前の中で、ユウタ・カガヤだからな。

 どう考えても異質だ。

 

「カガヤさんとお呼びしてもよろしいですか?」


「カガヤでも、カガヤくんでもカガヤさんでも、好きに呼んでいただいて構いません。特にこだわりはないので」

「では親しみを込めてユウタさんとお呼びしますね」


 なっ、まさかの名前呼びだと!?

 そりゃ好きに呼んでいいとは言ったけど、美人から名前を呼んでもらうことは人生初めての経験だから、なんかすげー気恥ずかしい――って今はそれはおいといて。


「それで決闘についてなんですが、先ほども言いましたように、俺が最初にアリエッタに無礼を働いたことが、そもそもの発端ほったんなんです。だからアリエッタは責めないでやってください」


 俺はもう一度深々と頭を下げた。


「なるほど。決闘については分かりました。お互いに譲れないものがあったのでしょう。とりあえずのところは不問と致します」


「お心遣い、ありがとうございます」

 頭を上げて感謝の言葉を伝えた俺の隣で、アリエッタがホッとしたように小さく息をはいた。


「ただしアリエッタは当面の間、決闘は挑むのも受けるのも禁止します」

「ええ~!?」


「ええ~、じゃありません。こうして話す限りユウタさんはとても常識的な人です。そんなユウタさんに、話も聞かずに一方的にカッとなって決闘を挑んだのでしょう? しばらくは頭を冷やして静かにしてなさい」


「は、はい」

 アリエッタがシュンとうなだれた。


「決闘については分かりました。ですがこの学園はそもそも男子禁制です。なぜ男子であるユウタさんが学園内にいるのでしょうか? この件に関しては、事と次第によってはただではすみませんよ?」


 俺を見るエレナ会長の顔から笑みが消え、目がスッと鋭くなる。


 当然だな。

 男子禁制、女の園であるブレイビア学園を預かる生徒会長として、男という存在は何よりも警戒すべき対象だ。


「実は、俺もなんで自分がここにいるのか分からないんです。気付いたら学園の大浴場にいて。その辺りの記憶が曖昧で、記憶喪失に近いのかな?」


 とりあえず「そういうこと」にしてみた。

 まさか異世界から来たと言うわけにはいかないが、この世界には俺の知り合いはいないし、俺の存在を証明してくれる人もいない。


 身分も戸籍もない。

 そもそも戸籍というシステムがあるかどうか知らないけど。

 ソシャゲじゃ国家が人口をどうやって把握しているのかとか、そういう面倒くさい要素は出てこないしな。


 それはさておき。

 俺はついさっきまでこの世界にいなかったんだから「この世界の記憶がない」のは間違いないし、よって記憶喪失と主張しても差し支えはないだろう。


 それに記憶喪失はソシャゲのプレイヤーキャラが入学するのと同じ設定だから、ゲームの展開を再現しようとする「世界の運命強制力」のようなものが働いて、きっと信じてくれるはず……だと思う。


 俺は強引に自分を納得させた。


「記憶喪失……ですか。話した感じでは受け答えもしっかりしていますし、自分の事や現状に関する記憶だけがすっぽりと抜け落ちている、という認識でよろしいでしょうか?」


「まぁうん、多分そんな感じかな」

「なるほど……」


 エレナ会長がわずかに眉を寄せた。

 考え込むように軽く握った右手を口元に当てる。


「なにせ自分の名前と、男なのに姫騎士であること以外は、何も分からなくてさ」

「男の姫騎士……」


 そう小さく呟いたエレナ会長が、俺の顔をじっと見つめてきた。

 絶世の美女たるエレナ会長に見つめられて、心がふわふわっとしてしまうのを感じていると、


「む~~!」

 横にいるアリエッタから、ガン!と割と痛めの肘打ちをくらった。

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