第14話 ツンツンツンツンツンツンツンツン

「いてて……。いきなりなんだよ? 変なことは言ってないだろ」

「別に! ふん!」


 せっかく助け舟を出してやってるってのに、よく分からん奴だな。


 まさか焼きもちか?

 って、まだ出会ったばかりでそれはないか。


 ソシャゲだと序盤のアリエッタは、プレイヤーキャラに対してツンデレじゃなくてツンツンだ。


 もうツンツンツンツンツンツンツンツン。

 バグじゃね?ってくらいに、明らかにツンの配分が過剰なのだ。


 そして「いつデレる?」「本当にデレるのか?」とプレイヤーをやきもきさせ続けながら。


 しかし溺れた猫を助けるイベントで唐突にデレて、

『アンタを見ていると、なんだか胸がフワフワするの』

 とか言い出して、そこからデレデレマシマシの「デレ時々ツン」なヒロインになるのだ。


 このジェットコースターのような激しい展開(不人気ゆえの手抜き疑惑有り)が、その時点で既に調教され尽くしていたドMなアリエッタ使いには、激しくツボる萌えポイントだったんだよな。


 それはそれとして。

 俺の説明を聞いたエレナ会長が話をまとめた。


「なるほど。ユウタさんについては、現状では情報が少なすぎるため、いったん保留ということにさせてください」


 おおっ!

 信じてくれたっぽいぞ!

 やはりあったか、世界の運命強制力!

 知らんけど!


「分かりました。でもいいんですか、こんなに簡単に信じてくれて」

「少なくともユウタさんは悪い人ではなさそうですから」


「えっと、自分で言うのもなんですけど、そんなに説得力のあるような説明でもなかったと思うんですが」


 異世界転移したことに関しては、ガッツリ嘘をついてるしな。


「直感でそう思いました」

「直感ですか」


 なるほどね。

 そういやそうだった。

 この人はエレナ・ローゼンベルクなのだ。


「ふふっ、こう見えて私の直感は昔からよく当たるんです」


 うん、知ってる。

 っていうか思い出した。

 エレナ会長の固有魔法の、精霊幻視――エレメンタル・フォーサイトだな。


「ふふん、すごいでしょ。お姉さまの直感を支えるエレメンタル・フォーサイトは、契約精霊の炎魔神イフリートを通して、世界のことわりに触れていると言われてるんだから」


「なんでアリエッタがそんな自慢げなんだよ……」


 ま、コンプレックスを感じてしまうほどに優秀な自慢の姉のことを、なんだかんだで誇りたいんだろうな。

 難しいお年頃というやつだ。


「そう言えば聞いていませんでしたが、決闘はどちらが勝ったのでしょうか?」


「俺が勝ちました」


「アリエッタに……ユウタさんが勝った?」

「はい、俺が勝ちました」


 俺がアリエッタに勝ったと聞いたエレナ会長が、驚きでそのルビーのような赤い瞳を大きく目を見開いた。


「将来有望な姫騎士が特に多い今年の1年生の中で、主席入学を果たしたアリエッタに? 男のユウタさんが勝ったのですか? にわかには信じられません」


「こう見えて戦闘は得意なんだ」


 そろそろ丁寧にしゃべるのがしんどくなってきたので、少しフランクな感じで言いながら――ほぼ同じ年なんだからいいよな?――俺は鞘に納めた神竜剣レクイエムの柄を、軽く叩いて見せた。


「お姉さま、こいつ男なのに精霊と契約して姫騎士になれる上に、魔法を打ち消す剣まで持っているの!」


「魔法を打ち消す剣……?」

「そうなの。だから全然相手にならなくて! 無敵の剣なの! だから仕方なかったの!」


「アリエッタ、それは理由にはなりません。どんなに苦しい状況でも、どんなに強い相手でも、戦う以上は勝ってみせるのが真の姫騎士というものです。そもそも人の扱うものである以上、完全無敵な存在などあり得ないのですから」


「うぐぅ……」


 姫騎士の何たるかをアリエッタに言い聞かせたエレナ会長の中では、既に俺と戦うためのプランができているのかもしれなかった。


 神龍剣レクイエムは強力だが、エレナ会長が言ったように決して無敵ってわけじゃない。


 例えば『否定』の概念魔法によって魔法を無効化するには、神龍剣レクイエムが相手の魔法に触れるか、魔法にある程度近くなければならない。


 だから例えば、神龍剣レクイエムを正面に構えている時に、背後から魔法攻撃されたら、それを無効化することはできないのだ。


 こんな風に攻略のしようはいくらでもある。

 聡明かつ、エレメンタル・フォーサイトを持つエレナ会長なら、戦えばすぐに神龍剣レクイエムの効果範囲の狭さに気付くことだろう。


「申し訳ありませんユウタさん。話が少し逸れましたね。ここまでの話をまとめると、どうやらユウタさんは本当に男の姫騎士なのですね」


「男なんで姫じゃないかもだけど、おおむねそういうことだな」


 俺は大きくうなずいた。


「身内の贔屓目ひいきめを抜きにしても、アリエッタの強さはかなりのもの。そのアリエッタになんなく勝ってしまう男の姫騎士……。どうやら通常ではありえない、摩訶不思議まかふしぎなことが起こっているようですね」


「みたいだな」


 なにせゲームの世界に異世界転生してしまったのだ。

 これ以上不思議なことなんて想像もつかないよ。


「時にユウタさん、なぜここにいるのか記憶がないとおっしゃいましたよね? となると当然、住む場所もないということですよね?」


「そうなるかな」

「では私から一つ提案があります」

「提案?」


 急に提案と言われて、俺はおうむ返しに聞き返した。

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