第21話

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



走った勢いのままお互いぶつかり合う。

私はテラの攻撃を受け流すだけで精一杯。


けれど、テラは私を殺そうとただ一心に次々と攻撃を仕掛けてくる。

視線は私から微々たりとも動かない。


だから、私もテラから視線を動かさないようにじっと彼を見つめる。


そんな時間が数十秒、いや数分だろうか。

少しの間続いた。


徐々に体力が削られていく一方で、テラの勢いは全く衰えることなく、むしろ私を押す勢いで掛かってくる。


どうする。

とりあえずあのクズ3人とリラが逃げてくれたらいいのだけれど、3人は腰が抜けたまま動いていないしリラはずっとこちらをジッと見たままでいる。


どうしたらいい。

何とかリラだけでも逃したいけれど、やっぱり手を引かないと無理か。


そんなことを考えながら戦っていたから。

テラに隙をつかれた。

クソッ。避けれるか⁈


そんなギリギリな所で、横から強烈なパンチがテラへと飛んでいった。

それはテラの鳩尾あたりへと当たる。


バッと振り向けば、リラが攻撃の姿勢を間近で取っているのが見えた。

あぁ、リラがやったのか。


そう納得したと同時にテラへと向き直る。

一瞬倒れた彼は、リラの攻撃をものともしない様子で再び立ち上がった。


そうしてまたこちらへと攻撃を仕掛けてくる。ほとんど自分から動かないリラも、率先して動いてくれる。


私とリラでテラと戦う。

私では彼にあまりダメージを与えられないので、できるだけリラのサポートに回る。


けれどどうしてもテラにダメージを与えることはできなくて。

どうしても正気に戻すことは出来なくて。


無意識に避けていたであろう最悪の結末を予想する。


ここで、テラを殺すしかないのか。


いや。

それは嫌だ。

魔物なんて、前世じゃ倒すだけの対象だったのに。


テラを見ていたら、ただの人にしか見えなくて。

私に居場所を与えてくれた大切な人で。

きっと。多分。心の優しい奴で。


だから分かるんだ。


あれはいつものテラじゃない。

だから、だからどうにかしてテラの目を覚さなければいけない。


でもどうやって……!


焦りながらそう考えていれば、後ろに何か当たる感触がした。


振り向けば、そこにはあのクズ3人が未だに地面へと蹲っていた。


「あんたらまだいたの…。」


こんなに逃げる時間を稼いであげたのに。

若干呆れながらそう発する。


「う、うるせぇ!あえてこの戦いを見守ってただけだ!」

「……へぇ。」


リラとテラが戦っている様子を見ながら、彼らに危害が加えられないよう守る。


守る……?

いや、守る必要なく無い?

だって彼らも武器を持っている。


武器は何のためにある?

それは立ち向かうため。

きっと3人もどこかのギルドの一員だろう。


あぁ、そうと分かったら取る行動は一つ。


「ちょっと聞いてあんたたち!」

「あ⁈」

「私とあの子があいつへ渾身の一撃を入れる瞬間を見極める!だから、それまでどうにかしてあいつの隙を作って!私たちが攻撃する隙を!」


早口に、けれど聞き取りやすいよう大声で叫ぶ。

それでも彼らはまだあまり理解できていないようで。


「は、ハァ⁈」

「何で私たちがそんなことしなくちゃ」

「じゃあここで死んでもいいのね⁈」


文句を言う彼らに残酷な言葉をぶつける。

そうすれば、先程までの勢いは薄れて、黙り込む。


流石にこれで自体が飲み込めたかと思ったのだが。


「で、でもどうやってやるんだよ⁈」

「五月蝿いわね!今考えてるんだから黙って!」


まだゴチャゴチャ言うの⁈

もう見捨ててしまおうか。

そう思った時だった。


まず男が、深呼吸をした。

それをみた女2人が、それに倣うように深呼吸をした。


そうして彼らは同時に立ち上がり。

真っ直ぐにこちらを見た。


「本当に、どうにかしてくれるのね。」

「……うん。」

「じゃあ、頼んだわよ。」

「……。」

「俺らだって、ギルドメンバーの端くれだ。こんな緊急事態、なんとも思わねぇ!行くぞテメェら!!」

「「おぅ!!!」」


覚悟を決めた彼らが、テラへと向かっていった。

緊急事態って。全部あんたらのせいなんだけど。

そんなツッコミを今は無視しておいた。


彼らがそれぞれ攻撃してくれてる間に、私とテラで隙を狙わなければ。


「リラ!」


彼女を呼べば、すぐにこちらを振り向き駆け寄ってくれた。

場違いながらそのことに少し嬉しさを覚える。


「どうしたの。」

「あの3人が突撃してくれるから。その隙を狙ってどうにか攻撃できる隙を狙いたいの。」

「うん。」

「でも、さっきみたいに攻撃するだけじゃ埒があかないから。」

「うん。」

「あのね。リラって、頭硬いよね?」


その問いかけにリラ頭にハテナを浮かべた。

そりゃそうか。

こんな脈絡のないこと言われたら。


「あのね。今までからだに攻撃しても意味なかったから。頭はどうかなって思って。」

「ほほう。」

「でも、ただ攻撃するだけじゃ効果は無いと思うの。だから、リラの硬い頭でテラに思い切り頭突きしたらどうかなって。あ、でもツノがあるからそこは気をつけて……」


我ながらガバガバな作戦だと思う。

だけど、今はもうこの方法しか解決策が思い浮かばない。

どうだろうか、と確認の意味も込めて恐る恐るリラを見遣れば、彼女は「面白い」とでも言うふうに不敵に笑っていた。ように見えた。


「分かった。」


そうしてただ一言、そう呟いた。


なぜか、それを聞いただけで、いけると思えた。

私はあの3人と一緒に技を仕掛けよう。

さぁ、あとはリラに任そう。


再び深呼吸をして、テラに向き直る。

変わらず恐ろしいオーラを放っているテラ。

けれど、ここ数日で。

たった数日だけれど。


彼はただの魔物ではないことが、心優しいのだということが、分かったから。

ここで殺さないように。


ここで、終わりにしないように。


覚悟を決めて、彼へと突撃した。

3人の動きに合わせるのが難しいけれど、悪くは無い。


うまい具合に攻撃を避けながら、こちらからも仕掛けていく。

そうして4人の息が合ってきた時。


チャンスはやってきた。


テラがバランスを一瞬崩す。


その時を狙って、リラが思い切り彼へと突撃した。

その速さは、ロケット並みでは無いかと言うほど一瞬で。


気づけばテラとリラのおでこは思い切りぶつかり合っていた。


その勢いのまま二人同時に傾く。

スローモーションのように感じながら、その様子を眺める。


4人とも、そのまま動けずにいた。


二人が地面へ倒れた音と同時にハッと我に帰る。


リラを急いで抱えてテラから引き離す。

そうしてもう一度臨戦体制をとるけれど、テラは動かない。


もしかして、リラの勢いが凄すぎて死んでしまったのだろうか。

と恐る恐る近づきながら、テラが動かないことを確認して息をしているか確かめる。


息はしているようでホッとする。

頭の上で大きく皆に向かって○印を作る。


それを見て、全員が。

リラを除いてだけれど。

漸く一息つくことができた。


もうツノや額の3つ目は消えていた。

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