第20話

「……え。あ……テ、ラ……?」


頭に生えた5本のツノ。

額に3つの目。

爪は長く伸びていて。


見慣れないテラの姿に声を失う。

よく見ると手の甲といった所にも目がいくつかある。


呆然としていると、テラが動いた。

声も出せず腰を抜かしている3人に向かってゆっくりと歩いていく。


「ひっ。あぁ。あぁ。く、来るなぁ!!!」

「きゃぁぁぁぁっ」

「いゃぁぁぁぁっっ!」


このままではまずい。

テラは今にもあの3人を殺しそうなオーラを放っている。

私が、止めなければ。


「……っ。テラ!!!」


つっかえる喉。

早くなる鼓動。

それらを無視して、なんとか彼の名前を呼ぶ。


その瞬間、テラはこちらへゆっくりと振り向いた。

我に返ってくれたのかと思ったけれど、違った。


変わらないどす黒いオーラ。

怒りや憎悪に満ちたままの目。

完璧に自我が消失している事が分かった。

それを見て標的が私に変わったのだと悟る。


3人に向かっていた憎悪が私に直に向かってきたことで、思わず身震いする。

ヤバい。殺される。


その意識に脳が支配されて動きが遅れた。

その隙を狙ったかのように、テラは一気に私との距離を縮め、長く鋭い爪で私の心臓部辺りを刺そうとしてきた。


避けられない!

そう思った時、右手をもの凄い力で引っ張られた。


「うわっ⁈」


そのまま後ろへと転げる。

上手く受身を取ってすぐ起き上がれば、何が起こったのかがすぐ分かった。


私がさっきまでいた位置にリラがいて、テラの爪を自分の腕で受け止めていた。

それを上手く跳ね除け、お互いが後ろに飛んで距離を取る。


「リラ!大丈夫⁈」


急いで私はリラの元へと駆け寄る。

テラの攻撃を受けた腕を見ると、少し抉れて中の機械が見えていた。


「どうしよう……。ごめん、ごめんねリラ。」

「問題無い。それより、あっち。」


そう言ってリラはいつもの無表情のままテラを指差した。

テラは再びこちらを攻撃してきそうな勢いでこちらを見ていた。


私はそれを一瞥して、リラの腕に向き直る。


「リラ、腕出して。」


素直に私の方に向かって伸ばした腕。

その傷の部分に、私のハンカチを結びつけた。


気休めにもならないし、何も意味がないかもしれないけれど。

これ以上怪我してしまわないように。

手当ての意を込めて。


リラはハンカチの巻かれた部分を、相変わらずの無表情で見つめた。


「ごめんね。守ってくれてありがとう。もう、大丈夫だよ。」


フゥ。

リラの手当てを終え、ゆっくり深呼吸をしながら、私は真正面からテラを見据えた。


焦ってばかりじゃだめだ。

思い出せ。以前の自分を。

私は元勇者だぞ。

こんな身体でも、出来ることはあるはず。


そうして覚悟を決めた。


テラに借りた剣を腰から抜き取る。

それを合図にテラがこちらへ向かってきた。

私もそんなテラへと走って向かって行く。


気合いを入れるため。

恐怖を吹き飛ばすため、大きく叫んだ。


「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

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