第19話
「あれぇ、あの時のガキじゃん。」
真ん中にいた男が、私の方を見てそう言い放った。
誰だこいつ。
そう思いながらジッとよく見てみるけれど、やはり誰だか分からない。
「は?お前俺様にぶつかっといてそのこと忘れてんの?最悪だな。」
「この小娘最低ね。」
「ほんとほんと。」
あぁ。1番初めにぶつかったあいつか。
漸く思い出した。
「いちいち覚えてないわよあんたらの顔なんか。」
「んだと⁈」
「まって!今はそうじゃ無いでしょ…!」
「…チッ。そうだった。おい、そこの兄ちゃん。さっきの魔法陣見たぜ。凄いじゃねえか。ちょっと俺らの仕事手伝ってくれよ。」
「……。」
男は今にも私に殴りかかってきそうな勢いだったけれど、横にいた女の1人が止めた。
目的はテラのようだ。
さっきのを見ていたらしい。
面倒くさいのに捕まったなぁ。
テラも同じことを思っているのか、男と目を合わせようともせず無視をしていた。
「おい!俺様の話を無視すんじゃねぇぞ!!」
それにキレた男がテラの胸ぐらをいきなり掴み上げた。
ちょ、こいつどんだけ短気なのよ!
テラなら大丈夫かと思ったけれど、見過ごすことも出来ず。
「ちょっと!やめなさいよ!!」
そう叫んで男の手を掴みテラから離そうとするけれど、叶うはずもなく。
結局ビクともしなかった。
「邪魔だクソガキ!どけ!」
「いたっ!」
それどころか怒鳴られると同時に押し飛ばされた。
痛い!地面にぶつかったじゃない!!
キッと睨めば「ヒッ」と3人が声を上げた。
え?もしかして、私の睨みって通用するの?
新しい特技を見つけたかもしれないと一瞬思ったけれど、違った。
3人はテラを見て青ざめていた。
何をそんなに怯えているのだろうと思いながらテラの顔を覗き込むと、その理由が分かった。
目が。なんの感情も篭っていないようでいて、静かにキレているようにも見える目が、彼らを射抜いていた。
震えながら男がテラから手を離す。
それを一瞥したあと、未だに地面に倒れている私と、横でジッと3人を見つめているリラの方を向いて「行くぞ」と言ってそのまま進んでいった。
その顔はいつものテラで。
なんだか拍子抜けした。
流石のテラでも胸ぐらを掴まれればキレるよね。
それにしても。
手を貸してくれてもいいのに、と思いながらも立ち上がって、ずっと3人を見つめたままのリラを引っ張って歩かせる。
ただいつもと違って、引っ張ってもなかなかその場から動こうとしないからかなり強めに引っ張ることになった。
いつもより少し目つきが鋭く見えるのは気のせいだろうか。
リラを引っ張りながらテラを急いで追いかけようとすれば、再び後ろから叫び声が聞こえた。
「おい、待てよ!」
それでも私たちは誰も振り返らない。
それに痺れをきらしたのか、さらに大きな声で男は怒鳴った。
「待てって言ってんだろ⁈俺はな、盗みの才能があるんだ!あんたの首にあった指輪は俺が貰ったぜ!!!高く売れそうじゃねぇか!」
いかにも負け惜しみのような言葉。
けれど、あの指輪はテラの大切なもののはず。
大丈夫だろうかとテラを見た瞬間。
テラから恐ろしいオーラが溢れ出した。
恐ろしい、というより。
禍々しいと言った方が良いのだろうか。
その場にいるだけで震えがする、そんなオーラ。
思わずリラの手をぎゅっと握る。
その場を動けず、ただジッとテラを見つめていると、彼はゆっくりとこちらを振り返った。
その顔を見て、私は固まった。
テラの額に、目が3つ。
そして、その頭にはツノが5つ生えていた。
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