第10話

コンコン


食器を洗うため、テラが朝食を食べ終わっただろう頃を見計らって1階へ降りると、ドアを叩く音がした。


今までそんなことが無かったため、いきなりのことに思わず動きが止まってしまう。


そんな私を横目に、2階へ戻ろうとしていたテラがドアを開けに行った。


開いた隙間から見えたのは、優しそうな雰囲気の男。

細目に茶髪の彼は、テラへ親しげに「やぁ」と挨拶をした。


「はぁ…お前、朝っぱらから来んなって毎回言ってんだろ…」

「だって、朝の方が行動しやすいからさ。偶に顔観にくるくらいなんだから許してよ。」


2人の親しげに話す様子に、どうやら友人のようだと予想がつく。


「で、今日は何の用だ。」

「いやいや。用はないって。ただ元気かなって顔観にきただけだってば。」

「そうかよ。」


じっと2人のやり取りを見ていると、ふとその男がこちらを見てきて目が合った。

それだけで男は目を見開いた。

はて、何かおかしな所でもあっただろうか。


「…テラ、あの子は?」

「あ?…あぁ。あいつは…俺ん家の居候だよ。」

「こ、こんにちは…。」

「…そう。」


一瞬、彼から怒ったような感情が伝わってきた気がしたけれど、それも直ぐに消え人当たりのいい笑顔を浮かべた。


「こんにちは。僕はテラの友人のミル。君は?」

「え、えっと。ララ…です。」


怒っていると感じたのは勘違いだろうか。

けれど、挨拶をしただけなのだから怒らす要素なんて無かったはずだ。


「なんだよ友人って。ただの腐れ縁だろ。」

「はぁ、テラっていつもそう言うよね。…彼女、人間だろ?お前人間とはもう…」

「うるせぇ。その話はすんな。」


ミルさんが声を潜めながら、私が人間と指摘するとテラは急に静かに怒った。


殺気すら感じられる。

何がそんなに彼の気に触ったのか。

私には分からない。


ミルさんはそんなテラの様子を見て怯えるのではなく、肩をすくめただけだった。


「分かった。ごめん。じゃあ今日はそろそろ帰るよ。」


申し訳なさそうにそう言ったミルさんは、踵を返して去っていった。

そんなミルさんを見送ることなく、テラは思いきりドアを閉めた。


「…どうしたの、そんなに怒って。というかミルさんも人間でしょう…?どうして私が人間だって態々指摘したの…?」

「お前には関係ねぇ。詮索するな。」


そう吐き捨ててテラは自室へと戻っていってしまった。


もう詮索はしないって決めていたのに、あまりの怒り様につい聞いてしまった。


「はぁ…」


またさらに謎が深まってしまった。

そもそも、あの人はテラが魔物だと知っているということだろうか。

でないと、私が人間だって指摘してこないと思うんだけど…。


悶々と考えていると2階からリラが駆け足で降りてきた。


「あれ、どうしたの?自分から降りてくるなんて珍しい。」

「攻撃されてる音がした。敵は。」

「こ、攻撃…?そんな音なんて…あぁ、テラが思い切りドアを閉めはしたけど…。」


いつもより早口で喋るリラにそう言うと、興味を失ったように2階へと戻っていってしまった。


なんだったの…。

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