拒否する理由
「成仏されない理由は、なんでしょうか?」
「理由なんてない」
「本当ですか?」
「あるわけない」
「こちらも、仕事なので理由なしに拒否をされますと困るのですよ」
「ないっていってんだろ」
「それは、嘘ですね」
玉野君は、タブレットを読む。
「お母様が末期癌ですか、余命が1ヶ月と宣告された日にこちらにきたのですね。飲みすぎてしまったのですね。お母様の到着を待ってから、一緒に成仏に行かれますか?」
尾藤さんは、ボロボロ泣いていた。
「そんな事、出来るのか?」
「ええ、可能ですよ」
「じゃあ、それでお願いします」
「わかりました」
そう言って、タブレットに何かを記入していた。
「待合室にどうぞ」
また、違うチビッ子がやってきた。
「尾藤さんは、待合室で待つんですよ!1ヶ月後のリストにお母様の名前がありましたから…。大丈夫です」
「1ヶ月って長いな」
「いえ、こちらでは一週間ですよ」
「えっ?」
「すぐに、きますね」
そう言って、玉野君は笑った。
「じゃあ、もう一人で大丈夫でしょうか?」
「何とかやってみるよ」
「もしも、トラブルがありましたらこちらを押して下さい」
ボールペンを渡された。
「何、これ?」
ポチっと押したら、玉野君が…
「イタタ、いきなり押さないで下さい。これは、耳でダイレクトに鳴るんですから」
「すみません」
「どうしても、わからない事があれば押して下さい」
「わかった」
「では…」
そう言って、玉野君はいなくなってしまった。
俺は、一人になってしまった。
「あのね」
「うん?」
小さな子だった!
「名前は?」
「波多野勇」
はたのゆう、検索と…。
「波多野勇、5歳、虐待によって死亡、あってるかな?」
「そうだね」
「成仏する気はある?」
「うん、おばあちゃんに会いたいから」
「わかった!じゃあ、あちらに進んで下さい」
「はい」
いい返事で、いなくなってしまった。
辛い仕事だな!
もっと、簡単なもんだと思っていた。
人がやってきて、検索をかけて、成仏するか聞いていなくなる。
結構、やっただろうと思ったのに、全然人は減っていなかった。
これは、人手不足だわな
何人したかわからなかったし、ただ、検索したら皆名前があって、渡されたタブレットに全部情報があって…。
もっといろんな人生があったはずなのに、こんな文字だけになって…。
どんな事をしたとか金があるとか優しいとか家族がいるとか、何も関係ないんだな。
ここでは、そんなの何の役にも立たない。
みんな、同じ場所に連れてかれるんだな
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