待合室

「ちょっと、待って下さいね!順番ですから」


めっちゃ、綺麗な女の人が受付してる。


キラキラしてる。


黄金色だわ!


「兄ちゃん、何で死んだの?」


「えっ?ああ、事故です」


「そうか!事故かー。俺はな!息子に刺されてよ!目覚めたら、ここよ」


「それは、何と言うか」


「御愁傷様です」


日常の挨拶か、御愁傷様ですが、おはようございますだ!


「ここは、何ですか?」


「ここ!ここは、受付だよ。ここで、受付してから、あっちで綺麗にされるわけよ!魂の滝な!あっちいったら、もう未練や汚れは捨てちゃうわけよ。そしたら、全部忘れちゃうわけよ。今までの事、全部。だから、みんなここから動きたがらないんだ」


「だから、凄い人なんですね」


「そうだ!愛する人を忘れたくなかったりするだろ。兄ちゃんは?」


「俺は、プロポーズしたい。だから…」


「忘れたくないんだな!だったら、みんなみたいにここにいるしかないよ」


「あなたは?」


「佐久間だ」


「佐久間さんは、ずっと」


「俺は、いいや!一人息子に殺されちまったからな!名前は?」


「早見翔です」


「翔くんか!じゃあな」


「佐久間さーん。お待たせしました」


「行くんですか?」


「ああ、兄ちゃん。頑張れよ」


佐久間さんは、ガッツポーズをしていなくなった。


未練なんて、山のようにあるのだろう


ひしめき合った満員電車のように、みんな待っている。


いや、待ってるのではなく。


行けないのだ。


未練があって、ここに残ってるのだ。


俺も、行きたくない。


「お母ちゃんとお父ちゃんが来るまでいやや」


「太一君は、まだ6歳だから早めに生まれ変われるよ!だから、行こうよ」


綺麗なお姉さんは、宥めている。


「いやや、二人が来るまでおる」


「ダメだよ!いたら、駄目」


「いやや、触んな!ブース」


そう言って、太一君は泣いていた。


「すみません」


俺は、近づいた。


「あの…」


「はい」


「太一君、あっちに行くの嫌なの?」


「いやや、お母ちゃんとお父ちゃんが来るの待っとく」


「そっか…。でも、生まれ変われたら、またお母さんとお父さんに会えるかもしれないんだよ」


「ほんまに?」


「きっと、会えるよ」


俺は、太一君の頭を撫でる。


「ほんまに、ゆうてる」


「うん、本当に言ってる」


「ほんなら、行くわ!」


太一君は、立ち上がった。


「ほなね!兄ちゃん」


「うん、じゃあね」


太一君は、手続きをしに行った。


「嘘つきになりますか?」


「嘘じゃありませんよ。子供は、早く向こうにいけるんです。5年もあれば、お母さんとお父さんにまた会えるんです」


「本当ですか?」


「はい、本当ですよ」


そう言って、受付の人は笑っていなくなった。



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