第13話 リコの部屋で
「今日の講義はここまで。明日の授業当番は17時30分、教官室前に集合して下さい。明日の訓練の準備作業について説明しておきます。」
「起立。講師に敬礼。なおれ。着席。」
一日の講義が終わり、学生たちは各々の寮室に戻っていく。
「ねえ、今日ちょっと話さない?気になることがあるの。」
モモがリコとサッチの後ろから話しかけてきた。リコとサッチは席が隣で、斜め右後ろにモモの席がある。授業中、リコが居眠りをしそうになると、決まってモモが叩いて起こすのが日常だった。
「モモか、いいよ。じゃあ、食事が終わったら3人で集合しよう。俺の部屋でいい?」
「いいわよ。じゃあリコの部屋に19時集合ね。サッチもよろしく。」
「オッケーだよ。授業当番の仕事が長引いたら、先に話してて。」
「オッケーよ。」
サッチは今週1週間授業当番で、訓練の号令を掛けたり、訓練の準備作業を行っていた。授業当番は、教官から説明された内容を正しく学生全体に伝達する役目があり、ミスがあると学生全体にペナルティーが課されることがあるため、授業当番の学生たちは皆少し緊張して任務に当たっていた。
「初めての授業当番だから、なんだか緊張しておなかが痛くなってきちゃったよ。」
「サッチは心配性だからな。大丈夫、当番要領の紙に書いてあるとおりやれば問題ないって。まあ、俺はいつも紙を見ても何個か間違えて怒られるけどね。気にすることはないさ。」
「リコが言うと全然説得力がないよ。もっとおなか痛くなってきちゃったよ(泣)。」
「いつもロキ教官が言っているじゃない。チャレンジしての失敗はチャレンジしないことよりもずっと価値がある。出来る限りの準備をして臨むこと。ってね。大丈夫よ。」
モモは眉間にしわを寄せ、低い声でロキ教官のものまねをして言った。
「プッ、なんだよそれ。でもなんか元気が出てきたよ。行ってくるね。またあとで。」
サッチは少し勇気が出てきたらしく、足早に教官室へと向かっていった。
食堂で食事を済ませたリコは、自分の寮室でベットでうつぶせになり、つたない字で必死に何かを書いていた。
「何なに?『君を初めて見たあの日から~』誰かにお手紙書いてるの?」
「おいモモ!勝手に入ってくるなって。」
「勝手に見ちゃってごめんなさいねー。でもあたし、約束してたわよね。」
「まだ18時30分だって。30分も早いぞ。」
「まあいいじゃない。どうせ暇なんでしょ。」
モモはそう言うと、リコのベットにどっかりと腰を下ろした。
「ねえリコ、この間私とサッチがあんたを追いかけた日があったでしょ?」
「ああ、あの日な。」
「あの日、ケルト駅に向かう電車の中にこの間レストランで襲撃されたアルカディアの2人組がいたの。」
「ほんとかよ!大丈夫だったのか?」
「私の後ろ側にいたの。顔は見てないし、声しか聞いてないけどたぶんあの2人組だと思う。」
「この間は散々だったとか、俺たちの顔を見られたからあのレストランを見張るとか言ってた。リコも気を付けて。私達も危ないんだと思う。」
「そうか。いよいよ身近に迫ってきたな。気を付けるよ。モモもしばらく一人で出歩かないようにな。」
「うん。・・・」
「どうかした?」
「なんかね、最近家にいる時誰かに見られているような気がすることがあるの。」
「ほんと?・・・実は俺もさ、最近帰り道あとをつけられているような気がすることがあるんだよな。」
「リコもなんだ。」
「アルカディアの夜明けのやつら?でもそれって何でかしらね。」
「何でってどうゆうことだよ。」
「少し考えてみてよ。ついこの間電車の中で私はアルカディアの2人組が私たちを探しているのを知ったわよね。ということは、私たちがどこの誰か少なくても分かっていないってことにはならないかしら。」
「たしかにそうだな。俺たちのことが分からないから、店を見張ろうってことなんだからな。」
「でも、家まで分かってるということは、私達の素性が正確に分かっているということにならない?」
「うーん、たしかに・・・。何だか少し怖くなってきた。」
「私達があの日あのレストランにいたことを知っている人間・・・その人間がアルカディアに通じている可能性がある。そういうことにはならないかしら。」
「理屈は通ってると思うけど、そんなの誰がいるかな。」
「・・・。」
二人は同時に顔を見合わせた。
「ロキ教官よ。」
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