009 テレビ

 幼少の記憶。

 今となってはすっかり夜型人間になってしまったのだが、幼いころなんかは親に言われるままに早くに就寝していた。日付の変更などは意識したことなんぞなく、眠って目が覚めれば翌日という認識の時代であった。

 しかし、早寝の弊害か何か、早朝に目が覚めてしまうことが数度あった。いつもよりも随分と早い起床でありながら眠れる気がせず、すでに私には弟がいたために両親を含む家族を起こすこともできなかった。こういう時には、私はこっそりと寝床を抜け出してテレビを見ることにしていた。音量を抑えめにすれば家族の寝ている寝室にまで音が届かないことを知っていた。

 しかし、早朝に放送している番組は数が知れており、うわさに聞く砂嵐に出会うことはなかったものの、販促が多かった印象を受ける。当時の私にはひどく退屈な番組であり、リモコンでころころとチャンネルを変えていた。

 では、両親の起きるまでずっと販促を眺めて退屈していたのかというと、実はそうではない。ときどきあたりが存在するのだ。映画やドラマがやっていることもあったので、見ている時が一体何話なのかやタイトルすらも全く把握できずに、その光景を見ていた。ホラーが多かったが、不思議と私は怖いという印象を受けなかった。おそらくは、当時テレビの見方がよくわかっておらず、視聴というよりもただ眺めているだけという状態だったからだろうと思う。幼いころというのは、思ったより成長しているように見えても、思い返せば成長しているように見えるだけでその実態は追いついていない場合が多いように思える。特に私の場合には。

 さて、その時見ていた番組は何だったのかというと、結局今もわかっていない。なぜなら、当時の新聞の番組欄を見返してみても、その時間そのチャンネルでは何も放送していなかったからだ。空欄だった。ご丁寧に別のチャンネルでは「ショッピング」と書かれていたのだが、そこのチャンネルは矢張何も書いていなかったのだ。当時私は何を眺めていたのか、テレビを見る夢を見ていたのか、ではいつ目覚めたのか──私は何もわからない。ただ覚えているのは、深い井戸の中で子供に蹴られるシーンだけだ。

 

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