008 鹿

 鹿の肉はモミジというらしい。さらに言えば、馬肉がサクラで猪肉がボタンなのだそうだ。また、ある地方では鶏肉のことをカシワというらしい。このような呼び方をする理由として、花札が由来だの色や並べ方が由来だのと諸説あるのだが、動物の肉に対して花や木の名前を付けるというのはなかなか趣があると思う。

 では他の肉は、となるわけだが、このように呼ばれるためにはある程度の歴史が必要となる。それゆえに近代に食されるようになったとされる牛肉や豚肉などにはこのような呼び方がないのではないだろうか、と私は考えている。かつては牧畜などで食肉を得るのは鶏くらいのもので、そのほかは狩りや漁などで肉を得ていた。猪や鹿などの肉が食卓に並ぶことが少なくなっている現代に対して、昔は猪や鹿のほうが食卓に上がっていたのだろうと思うと、文明開化によって牧畜の文化も開花したことがうかがえよう。

 その牧畜による間接的な影響か、鹿や猪の個体数が増え続け、農作物への被害が大きくなっている。日本狼がいた時代には個体数が抑えられていたものの、彼らが絶滅してからはその抑止力も働かなくなった。積極的に消費される肉でもないので、駆除などに苦戦しているとも聞く。

 ちなみに、猟銃の免許を持つ私は、時折シカを撃ってはそれを調理して食べている。気づかれないように潜み、対象の死角から撃って息の根を止めることがなかなか気持ちのいいものなのだ。このように表現すれば多くの人にいろいろな疑惑の目で見られてしまうのだが、狩猟をすることが私の娯楽でもあり、生業でもあるのだ。

 シカ肉というのはなかなか美味なものである。これは人によって見解が変わるものなので、聞いている人は各自の舌を信用してほしい。最近は食文化が変わってきつつもあるが、シカは大別すると雑食である。猪もそうだ。大勢の中で生き残るためには、矢張何でも食べる必要があろう。そうでもなければ体も大きくはならない。それゆえの味の個体差があり、その中にまた雑味があり、場合によっては獣臭さがあったりと、その観点で嫌われることもある。しかしそれでも、私は美味であると感じ、また食べたいとすら思えるのだ。

 調理方法はそう難しくはない。煮るなり焼くなり好きなようにするのがいいだろう。バーベキューでふるまうのもいいだろう。ただし気を付けなければならないのは、必ず火を通すことだ。なぜなら、シカ肉はジビエとしてみることができ、ジビエと呼ばれる肉は養殖の肉とは違って寄生虫の問題があるのだ。しっかり加熱することでその難から逃れやすくなるだろう。

 つい先日はいつものように出かけて行って、シカ肉をとることができた。正真正銘のモミジだった。特に尻のあたりの肉がおいしかった。

 山での食事?山は怖いので入ったことなんかない。

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