第8話 発見
同僚がいなくなり、あの男が出世してから1週間。また私の空っぽの休日がやってきた。
同僚が居た頃は夕方に待ち合わせをしてよく遊んだものだったが、それも今は居ない。
先週と同じように、その思い出に浸るように昼間からあの思い出の飲み街を散歩する。
すると、あの上司が目に飛び込んできた。
ヤツは今日出勤日だったハズなのに、なにやら仕事を抜け出して見知らぬ男と飲み交わしている。よく見ると先週も見かけたスーツのサラリーマンと飲んでいるようだった。
仕事をサボって飲み交わす2人の男。見知らぬスーツの男は仕事をサボっているという確証は無かったが、間違い無いのは私の上司が今、目の前で仕事を放棄している事である。
フードを深く被り、素性がバレないようにその店に入った。軽く注文を済ませ、離れた席からその2人の話に聞き耳を立てる事にした。どうやら2人は最近出会った仲らしく、サボり仲間として交友を深めたらしい。理解に苦しむ。
上司は酔っ払っているのか、見知らぬその男に自分がどのようにして最近出世したのか、会社を騙し、部下を蹴落として今がある事を恥ずかしげも無くスーツの男に語っていた。
こんなのが日本に蔓延ってると思うと反吐が出る。何故真面目に働いている私や同僚が苦しい目に遭い、あんな奴らが抜け抜けといい思いをしているのだと。
ふと思いついた。スマホでこの現場の写真を撮って抑え、会社に提出すればあの上司に一矢報いる事が出来るかもしれないと。ただ、リスクも伴う。確かに目の前で行われている蛮行は勤務怠慢に他ならないが、あの見知らぬスーツの男にとっては盗撮になってしまう。それに、提出したところでまた方々の手で揉み消す可能性もある。そこで報復を食らうのは私だ。しかし同僚の恨みを晴らす約束も…とカメラを向けながら考えていると
「おい にぃちゃん 何撮ってんだよ」
トイレに立った見知らぬスーツのあの男にバレてしまった。これではただの盗撮犯になってしまう。
「何も撮っていません。」とフォルダを見せた。
「だったらいいけど。こっちにカメラ向けんなよ」
よく見ると安いスーツを着たその男は席に帰っていく。
離れている席だったため上司にこの会話は届かなかったのが救いだった。にしても上司を貶める事が出来る現場をみすみす見逃してしまうとは…
トイレから出てきたスーツの男がボソリと呟く。
「…余計な事すんなよ。」
私は無言で頷いてしまった。私はなんて情けないのだろう。目の前で起こっている不祥事を容認してしまう様なものである。
居た堪れなくなった私は早々に会計を済まし、帰路に着いた。
拳を強く握りしめながら心の中で同僚に謝っていた。
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