第5話 絶望とホコリの匂い
そして数日経ったある日、ついに彼に出向が言い渡された。
見知らぬ地方に移り住む事になった。 あの日ほど魂が抜けたまま働いた日はなかった。
あの日の営業の一件がきっかけで彼の人生は様変わりしていくのだ。それも、あんなにくだらない上司のおかげで。気づけばその日の仕事は終わっていた。
その夜、彼と最後に飲み交わす事になった。いつもの様に盛り上がる会話などその日はなかった。それとない慰めの言葉と何とか上手くやっていってほしい。という会話がポツリポツリ…
味のしない酒は初めてだった。笑いながら語り合ったあの日の酒とはまるで似ても似つかない。ほとんど無言の男が2人。異様な光景だったろう。
去り際に彼が言った。
「この恨みは必ず晴らしてほしい。」
私には返事が出来なかった。
悔しかった。何も出来ない自分が。
ふらふらと歩き出す。アルコールのせいでは無い。まるでこれから己が歩き出す社会での路を示唆するように。
家に帰る気力が無い。気づけば知らないベンチに腰掛けて泣いてしまった。
鼻をつくようなホコリの匂いがした。下を向いたまま泣き続いた。すると少ししゃがれた低い声で誰かが呼びかける。
「何かあったのかい。あんちゃん。」
顔をあげると、あの高架下の公園だった。
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