第4話 忍び寄る理不尽

その日は特に疲れ切っていた。

私は営業職なのだが、その日は私の同僚と上司の2人で外回り営業だった。


しかし私はその上司と反りが合わなかった。その男は自分の部下の成績をあたかも自分1人の力で出したものだと言い張るような人格なのだ。

加えて上へのゴマスリも巧みなものだった。まるで絵に描いたようなクソ上司とはこの事だ。


会社も見る目がなかったのだろう。何とこの男は来季で出世がほぼ確定しているらしい。それもあってか今回の営業はかなり張り切っていた。同僚が準備していた資料を前日の夜に


「私が家でチェックする。」


等と言い持って帰ってしまった。恐らく添削等をしてまた手柄を横取りするつもりだったのだろう。



しかし、あろうことかその資料を当日家に忘れてしまったのだ。当然先方はかなりお怒りだったようで、2人は帰社してから部長室に呼び出された。私は部長室から聞こえて来る怒号に背筋を凍らせながら同僚を心配していた。 


その同僚はまるで悪くないからだ。 


一通りの説教が終わった後、同僚から衝撃の事実を知ることになった。なんと上司が言うにはその同僚が自宅で新たに資料を作り直し、当日持ってくる話になっていたらしく、私は勉強の為に前日作っていた資料を持って帰っただけだ、全ては同僚の所為だと。



勿論同僚はそんな話はしていないと部長に掛け合ったが、かき消すようにその上司に怒号を浴びせられ、言い返す気力も無くなったらしい。そして部長からはその上司の勤勉さを認められ、同僚は注意散漫だと罵られた挙句、出向も視野に入れておくと言われたらしい。



…こんな話があるか。神も仏もありゃしない。

私も当然部長に掛け合おうとしたが難癖をつけられ件の上司に止められてしまった。同僚は意気消沈である。


だが、私には彼を救う為に出来うる事等無かった。あの会社でのヒエラルキーでは私や同僚はまるで下の方だし、若い頃はそんな仕組みは間違っていると憤慨していたが、それを敵に回すという事はいかに無謀な戦いを挑むという事かをここ数年で思い知らされていたからだ。


見事に飼い慣らされていた

その日は特に疲れ切っていた。私は営業職なのだが、その日は私の同僚と上司の2人で外回り営業だった。しかし私はその上司と反りが合わなかった。その男は自分の部下の成績をあたかも自分1人の力で出したものだと言い張るような人格なのだ。加えて上へのゴマスリも巧みなものだった。まるで絵に描いたようなクソ上司とはこの事だ。会社も見る目がなかったのだろう。何とこの男は来季で出世がほぼ確定しているらしい。それもあってか今回の営業はかなり張り切っていた。同僚が準備していた資料を前日の夜に、

「私が家でチェックする。」等と言い持って帰ってしまった。恐らく添削等をしてまた手柄を横取りするつもりだったのだろう。

しかし、あろうことかその資料を当日家に忘れてしまったのだ。当然先方はかなりお怒りだったようで、2人は帰社してから部長室に呼び出された。私は部長室から聞こえて来る怒号に背筋を凍らせながら同僚を心配していた。その同僚はまるで悪くないからだ。

一通りの説教が終わった後、同僚から衝撃の事実を知ることになった。なんと上司が言うにはその同僚が自宅で新たに資料を作り直し、当日持ってくる話になっていたらしく、私は勉強の為に前日作っていた資料を持って帰っただけだ、全ては同僚の所為だと。

勿論同僚はそんな話はしていないと部長に掛け合ったが、かき消すようにその上司に怒号を浴びせられ、言い返す気力も無くなったらしい。そして部長からはその上司の勤勉さを認められ、同僚は注意散漫だと罵られた挙句、出向も視野に入れておくと言われたらしい。

こんな話があるか。神も仏もありゃしない。

私も当然部長に掛け合おうとしたが難癖をつけられ件の上司に止められてしまった。同僚は意気消沈である。

だが、私には彼を救う為に出来うる事等無かった。あの会社でのヒエラルキーでは私や同僚はまるで下の方だし、若い頃はそんな仕組みは間違っていると憤慨していたが、それを敵に回すという事はいかに無謀な戦いを挑むという事かをここ数年で思い知らされていたからだ。


見事に飼い慣らされていた。


私には彼を慰める事しか出来なかった。毎夜のように彼と飲みに出歩いた。


だが、それが彼の為に会社に対して何か報いる事では無い事は分かっていた。会社に対して思う事はあるのに己の保身の為に大きく問題提起する事が出来ない。同期入社で同じ部署、同僚であり数少ない友人でもあった仲間なのに。

情けなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る