第0.5話 今を生きれぬ献身に花束を、過去に縋る愚行にサヨナラを

自己犠牲の精神が美しいと思えるのは献身するその姿勢を真似たことがある故だろう。


自己犠牲こそ何かのためになると思い込んだ俺だが、今を生きていたらそうは思えない。

自己犠牲などしてなにになる。

事象を正義に変えても、善意を無情に移り変わらせても、事項を時効にしていっても、事柄の本質は自分勝手な理想像に縋る醜い欲と行き過ぎたそれらの愚行を取り戻せない伽藍堂な自己だけなのだ。


そうと知ればなりたくない。

そうと知れるなれば自己犠牲などしない。


あとから吼えることは誰にでも可能だ。

しかし、困ったことに自己犠牲の果てに心も欲も自分の意思と呼べるもの全てを棄てた愚か者は何も宣うことなく薄ら笑みを浮かべ心を殺した。


お前さんの生はその程度だった。


異常な献身と、

事象を覆す規則。


極めつけは、

現状に劇薬を仕込むかのようなおどろおどろしい禁じられた呪いを自分にかけたこと。


剥ぎ取る度にほとばしる痛みをお前さんは知らないはずもない。

追いかけれることが出来たらきっと、その痛みに慣れることも、そう成ることも独りになることもなかっただろう。


痛みに、痛々しくも囚われていたお前さんは痛覚なんてなかったかもしれないが、心の傷を抉るような傷みには、嫌われるお前さんでも耐えきれなかったんだな。


俺も似たようなもんさ、

何もかも捧げた果てに残ったのはなにもない。

こんなあるようでないとも言える力も必要と思ったことがあるものか。


名前も、装い。

身体も、使い捨て。


そんな人生だった俺にはお前さんの気持ちは分かったつもりでいたさ。

思い上がりだなんて、思ったこともなかった。


お前さんがそんなどうでもいいもののために全てに総て尽くして果てても、誰もお前さんを目に映さない。

だって、お前さんは、自己犠牲を望んで献身を重ねたのだから。


なぁ、なんで、【恋情】のためなんかに自分を捨てたんだ?

盲目的にもすぎると、お前さんなら分かれただろう。


分かれたから、

別れてしまったから、


離別に繋がったそれを掴み、離したくなかったから、お前さんは身を削っていったんだな。


ご冥福を祈るぜ、お前さんの罪状は、お前さんだけのものだ。たとえ他人が背負うと言い出してもお前さんは貫き通すだろうな、そのすまし顔で。


何とか言えよ、


夏の聖女

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