第4話 選んではいけない種族

 明輝が選んだのは、《ヒューマン》だった。

 しかしリナは明輝が選んだ、種族キャラを見て、絶句してしまう。

 それだけじゃない。あたふたし始めた。


「明輝、本当にこの種族を選ぶんですか!」

「えっと、そのつもりだけど」

「えぇっ! 本当に本当なの!」

「う、うん」


 何だろ。

 リナの目が泳いでいた。

 さっきまで楽しそうだったのに、急に困惑してしまう。

 手の動きがおかしい。下手なダンスみたいだった。


「り、リナ?」

「えーっと、とりあえずもう一回聞いてみないと、駄目だよね。うん」

「えーっと、変えた方がいいのかな?」


 えーっとを繰り返す二人。

 だけど、リナは明輝の提案に素直に賛成してきた。


「その方がいいです。断然押しますよ、私は!」

「どうしてですか!?」

「逆に何でヒューマンなんですか! この種族以外なら、なんでも面白いんですよ」

「だって、ピンとこないから……その、このキャラってハズレ?」


 リナはこくこく激しく首を縦に振る。

 そんなに駄目だったのかな。

 でも如何してだろ、気になる。


「リナ、ヒューマンが面白くないって如何して?」

「明輝は知らないかもしれないけど、このゲームは!」

「化物になれるのがそんなに楽しいの?」

「化物って言っても、創作のものがほとんどで、それこそ最初のエルフやカッコいいドラゴンとか、もちろん普段はヒューマンと同じで、必要な時だけ、部分的に使うって感じで」

「要は、ヒューマンは追加効果がないから弱いってこと?」

「は、はい。残念ですけど、【種族スキル】の効果は得られないって感じで」

「うーん」


 リナは絶対に《ヒューマン》を選ばせない気だった。

 しかし明輝は特にこだわりもないが、何故かこの種族が選びたくて仕方なかった。


「ごめんリナ。やっぱり私、ヒューマンにするね」

「本当に本当ですね。アバターの再作成はできないので、後悔は……」

「しないよ! 後悔したって、仕方ないもん」


 ここは清々しかった。

 リナは圧倒されてしまう。

 明輝はこういうの時の押しの強さと、直観を信じるタイプだ。

 だからこの選択は悔いがない。


「そっか。でも凄いね」

「そうかな?」

「だって、まだ誰もやってないんだよ。こんな偉業、普通出来ないって。逆にね」

「ぎゃ、逆に。う、うん。褒められてるってことで、受け取るね」


 明輝は顔を引き攣らせていた。

 絶対褒められてない。だけどリナは楽しそうで、この空気を崩したくなかった。

 そこで一呼吸置くと、リナは次のステップに進んだ。


「それじゃあ次行ってみよう」

「お、おー!」

「ノリいいねー。じゃあ早速、これ見て見て」


 リナはさっきの鏡を見せた。

 そこにある姿見には明輝の姿が全身くまなく映り込んでいた。

 しかも着たままの制服の姿だ。


「これが今の貴女。それで、ここからアバターを作っていくんだけど、下にパネル出てきたでしょ?」

「パネルってこれ?」


 視線を落とすと、透明なパネルが現れる。

 そこには空欄だらけの要項ばっかりで、よくわからなかった。


「それはね、明輝のステータス。ゲームを開始したら、すぐに確認してほしいんだけど、一応説明するね」


 リナは何も知らない明輝に事細かに説明する。

 このゲームはステータス表記がかなりわかりやすい。

 何故なら、レベル上げして伸びるパラメータは、如何にでも覆せる、いわゆるお飾りだからだ。

 そのため、リナがポイントするのはたった三つ。


「それじゃあまずは名前なんだけど、本名で遊ぶ人は少ないよ」

「如何して?」


 明輝は尋ねた。

 リナは明輝に簡単に説明した。


「えっとね、もし本名で遊んでて何かトラブルが起きたときに、身バレしてリアルで問題になるかもしれないからかな」

「そう言えば、昔何かあったかも。確か殺人事件になったって」


 物騒な世の中だ。

 明輝は身震いしたが、その指はキーボードをカナ表記に直し、正確に打ち込んだ。

 名前はもちろん、


「アキラ? あれ、本名だけどいいの?」

「うん。だって女の子がリアルで本当に明輝だとは思わないでしょ?」

「うーん、微妙だね」

「思わないでしょ」


 明輝は笑顔を張り付ける。

 すると威圧されて、何も言い返せなくなった。

 こんな時のごり押しは、明輝はかなり得意だった。


「うーん、じゃあ次はキャラメイク。アバターの見た目を変えてみよう」

「アバターの見た目?」

「そうだよ。そんなに大きくは無理だけど、少しぐらいはいいと思うよ。性別とか身長とかは変わらないけど、せめて髪色とか目の色とかは変えてもいいんじゃないかな?」

「うーん。じゃあ髪は桜色にして、目もどんな感じで」


 明輝は意味もなく桜色にした。

 リナは「なんで、桜なの?」と首を傾げ、明輝は「なんとなくかな」と素っ気なかった。

 だって、本当に意味なく頭の中に思い描いたのが、桜だった。


「それじゃあ最後に、ヒューマンだけはこの世界では珍しい、使で、NPCもヒューマンが多いからね」

「そうなんだ」

「それもそうだよ。だって私もヒューマンだからね。それじゃあ、楽しんでいってみよう!」


 リナはそう言って明輝を送り出した。

 明輝の体が、床に描かれた魔法陣に飲み込まれて、光に包まれる。

 すると明輝の意識は一瞬だけ途切れた。

 アキラになった時、リナの表情は笑みで溢れ、親指まで立てていた。

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