第10話  謎を解け!

 1



『五つの地を巡り、其の名を記せ さすれば宝への道は開かれん』


 地図に記されたその文言通りに、俺たちは地図を頼りに街を巡り、五つの地の名を全て手に入れた。


 1の場所『宮原みやはら


 2の場所『元城町もとしろちょう


 3の場所『三園平みそのだいら


 4の場所『阿幸地町あこうじちょう


 5の場所『根原ねばら


 地図によれば、これで宝への道が開かれるということだが……?


「勇にぃ、次はどうするんですか?」


 朝華は不安そうな顔をして俺を見上げる。


「とりあえず、ここにはもう用はないから、店に戻って作戦会議だ」


「おー」

「おー」

「おー」



 2



 〈ムーンナイトテラス〉に戻った俺たちは、二階の俺の部屋に上がった。


「さて、これで全ての地名を集めたわけだ」


「長い冒険だったねぇ」


 ベッドの上で横になり、未夜はHPの回復を始めた。時刻は午後一時半。冒険の開始からおよそ四時間半も経過していた。


「で、お宝はどこにあるんだ?」


 眞昼が尋ねる。


「まぁ、待て。朝華、メモをくれ」


「はい」


 朝華は地名を記したメモをテーブルの中央に置いた。


「俺たちは今日、地図を頼りに五つの場所を歩き回って、それぞれの地名を集めたわけだが、別にこれはファンタジーでもない現実。集めたところで地図が光って新しい場所が浮かび上がることもなければ、地図に封印されていた精霊が出てくることもない」


「じゃあ、なんのためにあたしたちはこんなに頑張ったんだ」


「いやいや、この地名は宝を見つけるためには必要なことであることもたしかだ。地図には『宝への道は開かれん』ってちゃんと書いてあるからな」


「でもここからどうすればいいんでしょう」


「俺の予想だと、この五つの地名がお宝の隠し場所のヒント、つまり暗号になっていると思うんだ」


「暗号……!」


 横になっていた未夜は飛び起きる。


「そういうのはこのミステリ隊長の私に任せるんだ」


「頼もしいぞ、未夜」


 眞昼が声援を送る。メモを覗き込み、未夜はうーんと唸る。


「この五個の場所のどこかが、本当の宝の隠し場所ってことかな」


「ふむ、そういう考えもありだな」


 まず俺たちは五つの地の内、四つがはずれで残る一つが当たり、という予想を立てた。この予想が正しいとなると、どこか一つだけ、があるはずだ。


「勇にぃ、読み方も書いて」


「おう」


 俺はそれぞれの地名の横に、読み仮名をふりがなで書く。


「みやはら、もとしろちょう、みそのだいら、あこうじちょう、ねばら……」


 声に出してみる。


「そういや、この三園平だけ数字が入ってるな」


 眞昼がぽつりと言う。それを受けて朝華が、


「あっ、それにほら、3の場所が園平で、3と三が一緒だよ」


 なるほど、三という数字が被っているところに気づいたのか。いい視点だ。こういう気づきが暗号解決には必須なのだ。


「じゃあ、三園平がお宝の隠し場所ってことか?」


「いや、それだけじゃまだ弱いな」


「そういえば、さっき勇にぃが言ってた線路は?」


 未夜は地図上の線路図を指でなぞる。Sからスタートし、二つの☆を通り過ぎてGで止まる。


「これ関係あるのか?」


 眞昼は半信半疑と言った様子だ。


 もちろんこれも宝探しには必要になってくるものだろうが、五つの地名を集める行程に含まれておらず、『五つの地を巡り~』の文言には線路図に言及している個所もない。


 いったい、どのようにして関わってくるのか。


「……」


 その時、俺はあることに気づいた。


 このSの駅、沼久保駅をスタート地点とすると、一つ目が西富士宮駅、二つ目が富士宮駅、そして、つ目にあるゴール地点、Gが源道寺駅。


 ここにもの符号があったのだ。ということは本当に『三園平』が宝の隠し場所……?


 これは偶然か?


 源道寺家で見つかった宝の地図。


 実際にある源道寺駅は、スタートの駅から数えると三番目。


 3の場所に設定されているのは『三園平』


 ここまで一致するということは、やはり3の場所が本命なのだろうか。


「……行くか」


「へ?」

「へ?」

「へ?」


「とりあえず、もう一回『三園平』に行ってみよう」


 俺たちは一階で遅めの昼食を摂っていた太一の下へ急いだ。カウンター席で父と一緒に車の話をしていた太一の膝に未夜が飛びつく。


「お父さん、今度は三園平に行って」


「あぁ? 何しにそんなとこ行くんだ?」


「お宝がそこに眠っているかもしれないんです」


 朝華が言う。


「おお、なんだ。ついに宝の場所が分かったのか」


「一応、可能性はあると思うんだ」


 そうして俺たちは3の場所『三園平』へと向かった。もしここが本当に宝の隠し場所だった場合に備えて、お宝の代わりとして金貨を一枚持ってきた。これは俺が子供の時に日本平動物園で作った記念メダルだが、お宝の代わりにはなる……はずだ。


 金だし、たぶん大丈夫だろ。


「着いたぜ」


 太一は路肩に車を停めた。


「ここだよ……な」


 先ほど訪れた3の場所。


 登山道へ通じる長い坂の道路と住宅街へ通じる細い道路が重なる丁字路の手前が、3の場所なのだが……


「どこにあるんだろう」


「道の下に埋まってるのかも」


 眞昼と朝華はきょろきょろと周囲に目をやりながら宝探しを始めた。未夜はさらなるヒントを得ようとしているのか、地図とメモを両手に持ってじっと見つめている。


 俺たちの解き方では3の場所、というあたりはつけられるものの、その先――詳細な隠し場所に辿り着けない。


 俺は未夜の背後に回り、地図に目を落とす。


 いくつもの3の符号が示す場所は『三園平』で合っているはずだ。


 他になにか手掛かりはないのか。


 もしそれらしい場所を発見したら、俺は先回りをしてこの金貨を隠さないといけない。


「あれ?」


 メモ帳とにらめっこをしていた未夜が、その時何かに気づいた。

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