第7話 源道寺駅
1
四つ目の場所へ行く前に、お昼も近いので早めの昼食を摂ることにした。散々歩き回ったので、休憩とエネルギー補給が必要だろう。母に貰った麦茶も、三人とも飲み干してしまっていた。
今しがた巡ってきたエリアは大人の俺にしてみればたいしたことのない距離だが、クソガキたちの普段の行動範囲からは大きく外れているので、彼女たちにとってはまさに冒険と言えるだろう。
浅間大社の南側、道路を挟んだ正面にお宮横丁という飲食エリアがある。主にこの街の名物である富士宮焼きそばが売られており、いい匂いを漂わせていた。
この街の焼きそばは麺が硬く、独特の食感がある。数年前に町おこしの一環でB-1グランプリなるB級グルメの祭典に参加したことで全国的にも有名になったようだ。市内には多くの焼きそば屋が点在し、週末になると観光客で賑わいを見せる。
「焼きそば食べたーい」
未夜がお宮横丁の前で立ち止まる。
「あたしも」
「おなか空きました」
「家まで待てないか?」
「待てない」
「待てない」
「待てないです」
「じゃあここで食ってくか」
〈ムーンナイトテラス〉は4の場所とは正反対の方角にあるから、行って戻ってくるのが手間になる。それなら、目の前にあるところで済ませてしまうか。
左側に焼きそば屋を中心とする飲食店が軒を連ね、中央から奥にかけて飲食スペースが広がっている。
「お前ら、普通の焼きそばでいいか?」
「うん」
「うん」
「うん」
「塩味もあるぞ」
「普通のがいい」とクソガキたちは声を揃える。全く、保守的なガキどもだ。
四人分の焼きそばを注文し、自販機で麦茶を買う。パックの皿に山のように盛られた麺。底を触ると熱々で立ち昇るソースの香りが食欲をそそる。
テーブルに座ってさっそく頂くことにした。
「いただきまーす」
「いただきまーす」
「いただきます」
ふむ、俺の味ほどではないが中々上手く焼けている。旨いじゃないか。
もちもちとした麺に絡むソースの旨味。しんなりしたキャベツの甘みが疲れた体に染み渡る。
「美味しい」
「美味い」
「美味しいね」
クソガキたちはちゅるちゅる麺を啜る。
「あと二つでお宝が手に入るのか」
「おい、眞昼。多分だが、それだけじゃ駄目だと思うぞ」
「なんで?」と未夜。
「見ろ、ここ」
俺は卓上に地図を広げて、気になっていた例の線路図を指さす。SとGを結ぶしましまの線路。二つのアルファベットの間には☆のマークが二つある。
「ほら、ここにSとGがあるだろ? これも宝探しに関わってくると思うんだ」
「どういう意味なんですか?」
朝華は俺を見上げる。
「これはおそらく線路の図だ。Sの地点はスタート、Gはゴールを表してると思う。で、実際の駅の場所に当てはめてみると、このSのところにあるのは
「源道寺って、朝華の苗字じゃん」
眞昼はハッとした顔を作る。
「そんな駅あるんですか?」
朝華は目を丸くする。
「お前ら知らねぇのか」
まあ、子供だから仕方がないか。駅名なんてそれこそ子供には縁がない代物だろう。
源道寺駅が宝探しに関わってくる以上、源道寺家との符号は何かしらの意味を持つはず。
全ての地名を集めた先で、いったい何が俺たちを待ち受けるのか。
2
食事を終え、俺たちは冒険を再開する。
4の場所がある北東を目指す。
エネルギー補給を終え、快調に冒険が進んでいることもあって、クソガキたちの歩みはペースアップしていた。
「なぁなぁ、お宝の予想しようぜ。あたしはやっぱり封印された伝説の剣だと思うんだ」
眞昼の質問を受けて、未夜は、
「大昔の地図だから、きっと埋蔵金だよ。朝華はなんだと思う?」
「うーん、なんだろう」
朝華は歩きながら地図を広げる。
「王冠、とかかな」
「王冠て」
何の王だよ、と心の中でツッコミを入れる。
さて今のところ冒険は順調だが、もしこの地図の謎を全て解き明かし、本当に宝のある場所を突き止めることができたとしても、俺の推測だとそこにはもう宝は残っていない。
宝探しの遊びを源道寺家の誰かが計画し、そしてそれはすでに、十年以上も前に実行されていると考えるのが妥当だ。これはすでに役目を終えた地図。
そして朝華はそれを偶然発見してしまった。
自分の家で発見した宝の地図を持ってきたのは、みんなが喜んでくれるだろうと思ったからに違いない。自分がみんなを冒険に引っ張り出したのに、最後にお宝が残っていないという事態になってしまったら、朝華の立つ瀬がなくなってしまう。
それだけは避けなくては。
最悪、謎が解けなかった、というオチに持って行けばいいさ。
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